敏腕社長は雇われ妻を愛しすぎている~契約結婚なのに心ごと奪われました~
第七章 公私混同してしまうので退職願を出したいです
 昼下がり。久しぶりにたっぷり睡眠を取ったからか、薬の効果もあってすっかり頭の痛みはなくなった。シャワーを浴びて着替えてきぱきと家事を済ませていく。

 自分のペースを取り戻して過ごしていると、あっという間に時間は過ぎ去り、気づけば午後五時前だ。

 そろそろ家を出ないと。

 会社近くのファミレスはひとつしかなく、逆にオフィス街の中で気軽に待ち合わせできそうなのがそこぐらいだ。

 母を待たせていけない、無意識に気を使い、店に急いだ。だいぶ日が沈むのが遅くなった気がするが、頬をかすめる風はまだ冷たい。

 ちょうど途中で銀行があるので、久々に通帳を記帳する。週末なのでATMは少しだけ込んでいたが、すぐに順番は来た。

 通帳に印字されている機械音がしばらく響き、出て来た通帳を確認する。残高が突然増えているのでよく見ると、隼人さんからお給料としてもらっている金額が桁違いだからだった。

 そこまで物欲もなく、隼人さんと住むようになってから生活費もほぼかかっていない。

 生活費は別に預かっているから、ここに記帳されているお金は、私たち夫婦の関係が雇用の上で成り立っているという証明だ。

 律儀に今月もお金が振り込まれているのを見て、胸が痛む。

 我ながら勝手だ。この関係は私が望んだものなのに。

 気持ちを振り払い、先を急ぐ。

 店に着くと途端に暖かい空気に包まれた。連絡すると母はすでに来ていて、サッと血の気が引く。
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