敏腕社長は雇われ妻を愛しすぎている～契約結婚なのに心ごと奪われました～

「未希」

　声をかけられ、慌てて四人席に座っていた母の正面に座る。グレーのパンツスーツに身を包んだ母は、ちらりと時計を確認した。

「ごめん。待たせた？」

「大丈夫よ、夕飯は？」

　ドキドキしながら尋ねると母は涼しげな顔で、こちらに尋ねてくる。

「あ、帰って隼人さんと食べるから」

「そう」

　そこで無難にドリンクバーを注文する。母も同じでいいと言うので、二人分。そのあと自分のカップにカフェラテ、母の分のコーヒーを入れて席に戻った。

　母とふたりで過ごすのが久しぶりで、親子なのに妙に緊張してしまう。

　ここで意識せずに近況やなにげない会話が交わせる関係だったらどんなによかっただろう。

「あの、話ってなに？」

　カップに口をつけ一口飲んでから切り出す。母はカップをテーブルに置き、一拍間を空けてから口を開いた。

「単刀直入に言うとね、進藤さんとは別れなさい」

　いろいろ想定してここに来たが、その範疇を完全に超えていた。

「なっ、なんで？」

　思わず素で聞き返す。しかし母はいつも通り、冷静そのものだ。

「彼にはうちの会社の社長令嬢である直子さんと結婚してほしいと思っているの」

　今度こそ頭を殴られたような衝撃を受ける。どういうことなのかまったく理解できない。どうして水戸さんの名前が母の口から出てくるのか。

　硬直している私に母は饒舌に説明していく。