敏腕社長は雇われ妻を愛しすぎている~契約結婚なのに心ごと奪われました~
「そう、かもしれませんが……私では水戸さんの代わりなんて到底務まりません。実は私、母子家庭で育ったんです。彼女と違って立派な肩書きとか社長に釣り合うものはなにもありませんから周りの方だってなんて言うか……」

 どう考えても社長の結婚相手としては分不相応だ。もっと彼に釣り合う女性、なんなら社長と同じように割り切った結婚を望む人も探せばきっといるだろう。

「彼女の代わりにしようとはまったく思っていないし、肩書きも必要ない。誰でもいいわけじゃないんだ。君だから言っている」

 ところが、あまりにも臆面なく告げられ、動揺してしまいそうになる。

 社長は私の家事代行業者としての腕と結婚観から私にこんな話を持ちかけているだけだ。強制でもなければ、拒否権だって私にはある。

 そもそも子どもとか、どうするつもりなんだろう。逆に私が離婚を言い出さなかったら婚姻期間はいつまでになるの?

 私は社長と目を合わせ、微笑む。とびきりの営業スマイルだ。

「仕事なら、契約書をいただけませんか? 詳細な雇用条件を確認したうえで判断させてください」

 社長は意表を突かれた顔をしたが、すぐに口角を上げニヤリと笑った。

「すぐに用意するよ」

 あれこれ疑問が湧き上がるのは、私の中で断るより受ける方に気持ちが傾いているからだと気づいた。

 水戸さんとはどんなやりとりを交わしたのかな? 少なくとも水戸さんは契約書を作れなんて言わなかっただろうな。
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