敏腕社長は雇われ妻を愛しすぎている~契約結婚なのに心ごと奪われました~
 結婚してもひとり暮らしのアパートは残してもいいかと社長に尋ねたが、それについては渋い顔をされた。傍から見るとやはり不自然だろう。実家もあるし、伯母にもツッコまれそうだ。

 引っ越しすることまでは考えていなかったので、結婚を決めてから私は大急ぎで荷物をまとめなくてはならなかった。

 日曜日の昼下がり、隼人さんのマンションの一室で私は荷ほどきにかかっていた。すべてではないが必要なものはアパートからだいぶ運び込めた。

 今日からここが私の生活の拠点となるのだと思うと、なんだか不思議だ。今まで通っていた場所で暮らすなんて。

 そのときスマホが鳴り、ディスプレイに表示された名前を確認した私はコートを羽織り慌てて玄関の外に出る。マンションの駐車場まで下りていき、いつもの場所に駆け寄った。見慣れた車が停まっていたので近づくと、運転席の窓が開く。

「お疲れさまです。お仕事大丈夫ですか?」

 隼人さんは今日も仕事があって出社していた。

「走る必要はないんだぞ?」

 頭を下げる私に、呆れた声が返ってきた。たしかに今の格好からすると、あまりお行儀がいいとは言えないかもしれない。とはいえ……。

「いえ。お客さまを待たせるわけにはいきませんから」

 真面目に答えて、これでよかったのかと一瞬迷う。けれど私は彼に雇われている立場なので、間違ってはいないはずだ。今日は伯母のところに挨拶をしに行く予定になっていた。
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