敏腕社長は雇われ妻を愛しすぎている~契約結婚なのに心ごと奪われました~
「せっかく来てくださったんですが、荷物は取ってこられたので」

「そうだな。もう行こうか」

 そう言って隼人さんは私が抱えていた紙袋をさりげなく持った。

「あっ」

「けっこう重いな。お目当てのものはこれだけか?」

「はい。ありがとうございます」

 お礼を言いながら自分の声があきらかに沈んでいるのがわかった。隼人さんに心配をかけるわけにはいかないのに。

 行きの和やかな雰囲気とはまったく異なり、なんとも重たい空気が車内を包む。

「お母さんは、いつもあんな感じなのか?」

 あんな感じ、というのが具体的にどういうものを指しているのか、はっきりとはわからないが、なんとなく彼の言いたい内容を汲み小さく頷く。

「はい。あの、ものすごく仲のいい親子というわけではないですが、お金で不自由もせず大学まで行かせてもらいましたし、感謝しています。ただ、話した通り母は仕事が一番大切で生きがいなので、幼い頃は私がずいぶんと煩わせてしまったみたいで……」

 母にとって私は、今も昔もできない娘のままだ。母ができる人だから余計にそうなのだろう。

 そこで再び会話が途切れる。ふうっと長く息を吐き、私はぼんやりと外の景色を眺めた。

「今日はありがとうございます。お疲れさまでした」

 マンションにたどり着き、降りる際に彼に声をかける。次は隼人さんのご両親に挨拶に行く番だ。緊張するが、仕事だと思うと不思議と割り切れる。
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