敏腕社長は雇われ妻を愛しすぎている～契約結婚なのに心ごと奪われました～
「一流のものを知っておかないとならないって外食が多かったし、マナーもうるさくて厳しかった。おかげで食事の時間はいつも緊張していたよ。家で用意されるのは、未希みたいに家事代行業者が用意したもので、それはけっして俺のための食事じゃなかったし、楽しい食卓とは程遠かったんだ」

　そう語る隼人さんはどこか寂しそうな印象を受ける。私のまったく想像もつかない世界で彼は大人になったんだ。

「だから旨いよ。これも、お母さんのために作ったオムライスもきっとなによりも美味しかったと思う」

「あのっ」

　気づけば私は反射的に声をあげていた。でもすぐに次が続かない。とにかく彼の物悲しそうな表情になにかを言わなくてはと必死だった。

　驚く隼人さんの目を見て、私は必死に言葉を紡いでいく。

「たしかに私は今、仕事としてこうして食事を作っていますけれど……でも相手が誰でも同じではなく、隼人さんのために作りますから。美味しいって思ってもらえるように頑張ります。だから……」

　そこで小さく肩をすくめた。

「隼人さんの好きなものとか味付けとか、遠慮なく言ってくださいね」

　最初の勢いはどこへやら。伝えられるのは、あくまでも家事代行業者の立場としてでしかないと冷静な自分が訴えかかけてくる。

「ありがとう、奥さん」

　恥ずかしさでうつむき気味になる私に、隼人さが優しく返してくれた。お礼を言うのは私の方だ。ずっと苦い思い出としてしまっていたオムライスを、今度は彼のためにもっと美味しく作ろうと思えたから。
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