敏腕社長は雇われ妻を愛しすぎている~契約結婚なのに心ごと奪われました~
 私と美奈子さん、そして橋本さんと木下さんがそれぞれ並んで向き会い、微妙な空気が漂っている。それで隼人さんもなにか察したらしい。軽くため息をついて橋本さんと木下さんの方に問いかける。

「母がどうかしましたか?」

 その質問にふたりは目を丸くした。

「母って……進藤社長の?」

「え、でも沢渡さんを娘って」

 ふたりの戸惑いはもっともだ。どう説明すべきか悩んでいると隼人さんに強引に肩を抱かれ引き寄せられる。

「彼女は俺の妻なんだ。母も娘のように彼女を可愛がっているので誤解を招いたようだが」

 剥き出しの肩に触れた手のひらの感触にどぎまぎする。けれどここで動揺しているのを悟られるわけにいかない。

 隼人さんの説明に橋本さんの顔は真っ赤になり、逆に木下さんの顔は青くなっていく。

「うそ! 進藤社長と沢渡さんが? なぜです?」

「君に関係あるのか?」

 感情的になる橋本さんに隼人さんは冷ややかに返した。

「今日のプレゼンについての評価は篠田(しのだ)から話があるだろう」

 篠田は部長の名前だ。橋本さんの血の気がさっと引いて、彼女は押し黙った。

 隼人さんは私の肩を抱いたまま、その場を離れようとする。美奈子さんは隼人さんが現れてからは口を開かず、息子に任せて見守っている姿勢を取っていた。

「未希」

 不意に名前を呼んだのは、隼人さんではなく木下さんだ。私は彼を一度見てから、ふいっと顔を背ける。もう彼とはなにも関係ない。

 あの頃の惨めな思いを繰り返したくなくて私は隼人さんに促されるまま足早に先へ進んだ。
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