愛の充電器がほしい

第14話


結婚は人生の墓場だ

忍耐だ

既婚者は、現実にどうにもできない
はけ口をそうやって逃げようとする。

最初は大恋愛して、
好きだの愛してるだの言いながら
結婚したはずなのに
人間は、何年も経つと気持ちも
冷めるのか。

人に寄るのかもしれないが、
颯太の場合は
そんな流れで結婚した
わけじゃない。

たまたまだった。

大学のサークルが一緒だったと
いうこともあって、
実花と一緒に過ごすことが
多くなり、
実花の誘導で
パン屋の上の部屋に
入り浸るように
なって
紬ができたきっかけで
結婚することになった。

できちゃった結婚だった。

若気の至り。

気持ちはあまり無くても
流れで
できてしまうこともあるのかと
当時は他に誰もいなかったため、
家族としての実感がわかないまま
結婚式も挙げずに婚姻届けを出すだけで
どんどん事が進んで行った。

実花は就職活動せずとも実家を継ぐだけで
仕事はできてるし、
颯太は、紬ができてから
焦るように
就職活動をして、
大手のIT 会社に就職が決まった。

まさかこんなに早く昇格するとはと
先輩に驚かれるほど、
出張が多くなり、
都内に住んだ方がいいと
単身赴任を会社からすすめられて
現在に至る。

家族を本当に想っていたはずの颯太の
気持ちは受け入れられず、
一緒に引っ越して住むという
考えは実花にはなく、
両親のパン屋を継ぐ一心だった。

実花は本当は親の元から離れたくないのと
身の回りの家事をやりたくない
人任せにしたい他力本願だった。
かと言って、颯太一人に家事を
背負わせるほどの気持ちはなかった。
女のプライドかどうかはわからない。

そんな時に、母豊美のアドバイスを受け、
もしかしたら、颯太との相性が良くないのか
と思い始めた実花は、マッチングアプリを
登録しては、独身のふりして、
相手を探した。
すでに紬の存在はそこにはなかった。

ちょうどいい男性が現れると、
パン屋の跡継ぎにとパン職人を
目指してる人が実花の家に通い始めた。

実花は、理想としていた人が来てくれたと
毎日がウキウキしては
隣にべったりとパンの作り方を教えては
足りないところを教えてもらったりして、
見ていられないほどのラブラブぶりを
紬と豊美は見せられていた。

「ねぇ、おばあちゃん。
 最近、来てるあの男の人って…。
 ここで働く人?」

「……誰だろうねぇ。
 おばあちゃんもわからないけど、
 働いてくれると嬉しいね。
 人手不足だから。」

雄亮は、毎日来る新しい実花の彼氏を
黙って見守っては、自然の流れで仕事を
任せていた。

丁寧に仕事はするは、嫌がらずに
パンを作るため、文句は何一つなかった。
仕事上の付き合いとしては。


そんなある日、実花と紬は
大喧嘩をした。
ほんの些細なことだった。
学校へ提出する宿題のチェックノートを
お願いしようと母の実花に頼もうとしたら、
なぜかいつもしてるはずに拒否られた。

「なんで、いつも書いてるでしょう。
 ママなんだから、
 ちゃんと書いてよ、ほら!!」

「好きであなたのママに
 なった覚えはないわ!」

「は?!」

「紬、ママなんていなくても
 生きられるよ。
 パパのところにでも行って
 暮せばいいんじゃないの?」

「な、何言ってるの?
 パパはお仕事で別々に
 暮らしてるんでしょう。」

「いいのよ、
 紬が生きたいところで
 生きれば…。」
 
 真剣に答える実花。
 紬は感情的になり、見捨てられたように
 感じて大量の涙を流した。

「ママなんて大嫌い!!」

ドアを勢いよく閉めて、自分の部屋のベッドに
飛び込んだ。

こんなにも居場所がないなんて
なんでここにいるんだろうと
ふとんを握りしめては悔しがった。

紬は感じていた。
もう自分自身に愛情を向けられてないこと。
新しく来た男の人に夢中だということ。
祖母の豊美の気持ちも下がっているのか
まともに相手してくれなくなった。

何歳になっても
母として役割は変わらないはずなのに。


◇◇◇


 スマホのアラームが鳴った。
 スズメが鳴いているのが聞こえる。
 カーテンを開けると太陽の光が差し込んだ。

 今日は天気がよさそうだ。

 両手をのばしては、体を伸ばした。

 ソファを見ると、毛布を体にかけては
 猫のように丸まっている颯太がいた。

 とても寝づらそうだった。

 体温を測ると平熱に戻り、だるさも消えていた。
 健康に戻った体がありがたいことに
 深く感じた。

 フライパンに目玉焼きとウィンナー
 小鍋に豆腐の味噌汁を作った。

 鼻歌をうたいながら、作っていると、
 颯太が目を覚めたようで
 後ろから、鍋をのぞいていた。

「何、作ってるの?」

「あ、おはよう。
 目、覚めたんだね。」

「おはよう。
 熱、下がった?」

 額に手を添えて、確かめると
 平熱であることがわかった。

「うん、ありがとう。
 おかげさまでさがりました。
 今、朝ごはん作ってたから待ってて。」

 腰に手をまわしては、うれしかったようで
 肩に顎を乗せた。

「普通にうれしい。」

「え?そう?」

「当たり前が当たり前じゃないんだよ。」

「哲学者?」

「違うけど。」

「どうしたの?」

「ううん。
 作ってくれるのがうれしいんだ。」

「そりゃぁ、看病してくれましたから。
 お礼も込めて作りますよ。」

「料理できるんだね。」

「え?
 まぁ、定番なものなら作れるよ。
 颯太さんみたいに塩と砂糖を間違える
 技は無理だけど…。」

「うわぁ、それ嫌味?
 いいよぉ。もう作らないから。」

「嘘、嘘。
 作って。間違ってもいいから。
 おいしいとは言わないかもしれないけど!」

「一言余計。」

「ご、ごめんなさい。」

「素直でよろしい。」

 2人は、テーブルに器を並べては、
 朝食を仲良く食べ始めた。
 向かい合って誰かと食べるなんて
 何年ぶりだろう。
 こんな空間が
 すごく愛しく感じる颯太だった。

 美羽も、誰かに作る食事で
 ホクホクになったのは、
 今が一番かもしれない。

 すがすがしい朝を迎えた日だった。
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