愛の充電器がほしい

第47話

雲一つない空だった。

颯太と美羽は、
予約していた総合病院にある産婦人科の
待合室にて静かに待っていた。

平日だったため、
紬は学校に行っていた。

オルゴールを鳴らして
壁に飾られた時計は10時を
知らせていた。

「28番の方。
 3番の診察室へどうぞ。」

 同じように待っていた
 妊婦さんが
 チラチラと伝言掲示板を見て
 番号を確認していた。
 スマホを見ていた美羽はその番号に
 気づかなかった。
 颯太が美羽に声をかけた。

「美羽、診察番号って何番?」


「え、ちょっと待って。」

バックから感熱紙に印字された番号を
確認した。

「あ、28番だった。
 行ってくる。
 荷物、見ててね。」

「うん。行っておいで。
 慌てないでゆっくりね。」

「わかってるよ。
 あれ、3番で合ってる?」

「そうそう。」
(大丈夫かな…。)

 美羽は、お腹をおさえながら
 そっと診察室の引き戸を開けた。

「28番の方ですね。
 お名前よろしいですか?」

「えっと、楠 美羽です。」

「はい、確認とれました。
 こちらにおかけください。
 今、先生来ますから。」

「はい。ありがとうございます。」

 看護師に声をかけられて
 ゆっくり椅子に腰掛けた。

「はい、お待たせしました。
 石崎と申します。
 楠さんですね。
 体調はいかがですか?」

 青いスクラブを着た
 産婦人科医の石崎が
 パソコンの前に
 座った。
 美羽の電子カルテが表示されていた。
 
「そうですね。
 よだれがたくさん出ます。
 あと、あまり、食欲が無いですね。」

「あれ、最初あまりつわり
 なかったんじゃないですか?
 今、安定期ですもんね。
 つわりが最近になって出た感じかな。
 個人差あるからね。
 妊娠中ずっと
 食べられて無い人もいますから
 今は、とにかく食べられるものを
 食べましょう。
 体重をさっき確認しましたが、
 今のところ問題なさそうです。
 順調に育ってますよ。
 検査してみましょう。
 ベッドに横になってください。」

「はい。」

 美羽は言われた通りに
 診察室の中になる
 ベッドに横になった。

「ちょっとだけ冷たいですよ。」
 
「はい、大丈夫です。」

 先生は検査用のゼリーを塗って
 超音波をお腹に当てた。

「写真撮っておくね。
 うん、うん。
 立派に育ってる。
 あれれ、後ろ向きかな。
 恥ずかしがり屋かもしれないね。
 今、白黒写真の他に
 3D写真もあるからね。
 はい、検査終わりましたよ。」

 横にいた看護師は美羽のお腹の
 ゼリーを拭き取ってくれた。

「服着て良いですよ。」

 検査を終えると、美羽はもう一度
 診察の椅子にもどった。

「前にも写真渡したと思うけど、
 見比べて見てね。
 ほら、これ、後ろ向きだから。
 今回は残念、性別はわからないね。」

「写真ありがとうございます。
 性別は次の受診の時に
 分かりますか?」

「赤ちゃんが見せてくれればいいね。
 また1ヶ月後に予約してくださいね。
 今日は以上です。」

「ありがとうございました。」

 美羽は、メガネをかけた男性医師の
 石崎にぺこりとお辞儀をして、
 診察室を出た。

 待合室で腕を組みながら、
 こっくりと寝そうになっていた
 颯太の肩をそっと触れた。

「お、おう。
 終わった?」

「うん。
 写真もらったよ。
 ほら、3D写真だって。」

 ペラペラしている赤ちゃんが映った
 写真を颯太に渡す。

「すごい。
 カラー写真だね。
 技術は進歩だわ。
 俺らのおかげね。」

「そうね、パソコンだもんね。
 颯太も関わってるかも
 豆粒ほど?」

「直接的に関わってないけどな。
 プログラミングも大事だろ。
 というか、これって
 後ろ向き?」

「そうだって。
 先生、恥ずかしがり屋かもしれないね
 って言ってたよ。
 可愛いね。」

「楽しみだな。
 性別はまだ?」

「うん。
 次の診察の時かなって言われた。
 その子次第みたい。」

「そっか。
 んじゃあと会計だろ?」

「うん。移動しよう。」

 美羽のバックを代わりに持つ颯太。
 手を引いて、美羽を連れて行く。
 お腹が大きくて、
 動きにくくなってきた。
 
 病院の広い廊下を移動中に

「今日のお昼は何食べられそう?」

「やっぱりフライドポテト?
 それだけはなぜか食べられるんだよね。」

「都合いいなぁ。
 俺は、そればかり食べ過ぎて
 最近お腹がプニプニしてきたよ。」

「え、サラダにすればいいんじゃない?」

「え、美味しいものを食べるなと?」

「食べればいいじゃん。
 別に気にしないで。」

「太っても気にしない?」

「その分、運動しなよ。腹筋とか。
 そのままでいるから太るんでしょう。」

「最近、風当たり強くない?」

「そんなことないよ。
 あ、そういや、颯太って何型なの?」

「え、俺、C型。」

「そんな型ないでしょう。」

「うん。無いから。
 オリジナル。」

「もう、教えてよ。」

「はいはい。A型です。
 多分O型も入ってるA型かな?
 母さんがO型だったから。」

「そうなんだ。
 私はO型だけどね。」

「母さんと同じなんだ。
 そっか。O型ね。
 その割に
 整理整頓は雑だよね。
 丁寧じゃない。」

「特別変異かも?」

「そんな訳ないでしょう。」

 会計窓口の待合室に着いて、
 自分のカルテファイルを
 受付に渡した。

「少々お待ちください。
 お呼びいたします。」

 颯太と美羽は受付前のベンチに座った。

「血液型で性格が出るっていうけど、
 あくまで目安でしょう。
 合わないところもあるよね。
 育った環境とかで几帳面だとか。」

「そりゃぁね。
 全部が当てはまる訳じゃ無いでしょう。」

「だよねぇ。
 あれ、紬ちゃんは何型?」

「えっと確か紬は…O型?」

「一緒だね。 
 良かった。」
(聞いておいて良かった。
 この子の血液型調べた時
 違ったら驚くだろうけど、
 あの人と同じだから
 バレないかも。)
 
 美羽は心の片隅で
 颯太には言えない秘密を
 隠していた。

「楠 美羽様。
 お待たせしました。」

「あ、はい。」

 会計の窓口に立ち、財布を出して
 支払いを済ませた。

「お大事になさってください。」

 会計を終えて、
 病院の出口に向かう。

 次の診察は約3週間後、
 性別がわかるかもしれない。

 美羽は性別よりも
 血液型はどれなのかの方が
 気になっていた。

 颯太はそんなこととは知らずに
 日々を過ごしていく。
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