愛の充電器がほしい

第53話

だんだんと琉久のお世話に
慣れてきた美羽。

授乳するタイミングや
オムツ交換する手際の良さ。

颯太と紬は、
グタグタ文句を言いながら
手を動かしていた美羽は
どこに行ったんだろうと思いながら
拍手を送った。


テキパキと動けるようになって
美羽も機嫌がいい。


「行ってらっしゃい。」

「ママ、今日のおやつは
 アイスクリームがいい。
 そうだな。
 チョコミントかな。」

「え?
 紬、あのスースーする味食べられるの?
 歯磨き粉みたいじゃない。」

「ミント入ってるからって
 歯磨き粉って言わないで。
 食べてみれば美味しいんだよ。」

「そうなんだ。
 試してみようかな。
 うん、ママも同じの用意しておくから。」

「うん、わかった。
 楽しみにしてるね。」

 そう言って、
 ランドセルを背中に紬は登校した。

 玄関のドアまで見送ると、
 ベビーベッドで
 ガラガラとかみかみおもちゃに
 夢中になる琉久を横目に
 洗濯物干しにベランダに出た。

 颯太と紬がいない間に
 しなきゃいけないことを
 思い出し、
 寝室に移動した。

 昨日見ていた封書を
 もう一度確かめようとした。

 引き出しを開けると
 少し紙がはみ出していた。

 危ない危ない。
 颯太に見られてしまったら
 驚くだろうと
 焦った。

 三つ折りになった用紙を
 もう一度開いて
 内容を確認した。

 100%の確率で
 颯太と琉久は
 親子関係ではないと
 記されていた。

 念のため、
 確認をしてみたくて
 紬との親子関係も調べていた。



 その結果を見て
 驚きを隠さなかった。



 琉久との関係は
 薄々感じていたが、
 まさか紬と颯太の親子関係も
 100%否定されていた。



 一緒に暮らしている
 この家族は
 血縁関係として
 繋がっていないことがわかる。



 もちろん、
 美羽と琉久は
 完全なる親子であることは
 間違いない。



 美羽は
 血の繋がりがなくても
 一緒にいて
 安心して
 落ち着いて生活できるのは
 とても幸せなことじゃないかと
 変に納得した。



 この関係性については
 颯太と紬には
 わからないよう、
 話さないことに決めた。



 日常生活を真っ当に生きる。

 美羽はそう自分自身に言い聞かせた。



 今ある生活を壊したくない。


 確かに育児や家事は
 大変だ。


 仕事にも手をつけたいが
 フラストレーションで
 呼ばれることが多い。


 落ち着くまでは
 在宅ワークは
 控えておこうと考えた。

 

 それでも
 そんな生活を送りながら
 あの時みたいに
 不安はない。



 充実した時間 
 充実した日々を過ごしている。




 心はいつも満たされているのだ。





 安定した生活を送って
 長い歳月が経った。



◻︎◻︎◻︎


「姉ちゃん!! 
 ほら、朝だよ。
 遅刻するよ。」

 琉久が小学生になった。
 紬は中学生だった。

 姉よりも早く起きる弟の琉久。
 性格はしっかり者のようだ。
 紬はのんびりマイペース。
 母よりお母さんのような行動をする
 琉久だ。

 颯太の様子を見て行動を
 真似ているようだ。

「えー…。
 もう少し寝てたいー。
 寒いもん。」

「学校遅刻するって!」

 肩を何度も揺さぶった。

「わかった、俺、姉ちゃんの
 プリン食べるから。」

そう言って冷蔵庫のある台所に走る。


「なんだって?!」

紬は食べ物のことになるとムキになる。
プリンは大好物のため、反応が早い。
それを琉久は知っていた。

「あー、おはよう。
 琉久、今日も助かるわ。
 プリン作戦ナイスだね。」

「えーーーー、プリン無いよ?」

 紬は冷蔵庫を見てガッカリする。

「嘘に決まってるって。
 そうでも言わないと姉ちゃん 
 起きないだろ?」

「はあ?!
 気分悪い。もう一度寝るわ。」

「紬!?」

 美羽はパジャマの首元を引っ張って、
 鬼のような顔になっていた。

「え?」

「お母さんが言いたいことわかるよね?」


「あ、はいはい。
 わかりました。
 今起きます。
 絶対起きます。
 プリンは自分で買ってきます。」

「分かればいいのよ、分かれば。
 ほら、朝ごはん用意したから
 食べて。」

「やったー。
 今日は鮭おにぎりじゃん。」

 紬は、おにぎりを見て喜んでいた。

「ぼく、食欲ないから
 コーンフレークでいい。」

「胃袋小さいね、琉久は。」

「いろいろあるの。
 小学生にも。」

「はいはいはい。」


 食卓でわあわあ話していると
 パジャマ姿の颯太が起きてきた。
 あくびをしながら

「おはよう〜。」

「おはよう、お父さん。
 そういや、昨日
 テレビでお父さんの好きな
 女優さん出てたよ。
 なんだっけ。
 フワちゃん?」

「フワちゃんは女優じゃなくて
 タレントだろ?
 別に父さんフワちゃん普通だけど。」


 冷蔵庫から
 牛乳を取り出してコップに注いで
 ぐびぐび飲む。

「お父さん、今日は休みなの? 
 随分のんびりね。」

「まーね。
 たまってた有給消化しようと思って
 今日休み取ってた。」

「え、父さん
 平日休みって解雇されたサラリーマン
 みたいじゃん。」

「琉久、随分いろんな言葉知ってるな。
 待て待て、俺は解雇されてないぞ。
 どこで覚えた、その言葉。」

「お母さんがハマってる
 刑事ドラマに出てくる話だよ。
 クビになったサラリーマンが
 嘘ついて有給だって
 公園うろうろしてて…
 犯人に刺される話。」
 
 おにぎりを食べながら
 代わりに答える。

「どんな話だよ?
 本当、口が達者になって
 成長してきたな。
 全く、赤ちゃんの時は
 泣くことしかできなかったのに。」

「……ぼくにも赤ちゃんの時が
 あったんだもんね。」

「私、琉久のこと
 蹴ったよ。」

「へ?赤ちゃんなのに?」

「ヤキモチだよ。」

「可愛く言ってるけど
 かなりひどいよ、姉ちゃん。」

「まあまあまあ。
 琉久のプリンも買ってくるから。」

「それで許してって言ってる?
 許さないよ?」

「2人とも喧嘩してないで
 さっさと学校行きなさい!」

 美羽は叫ぶが
 聞こえてないらしい。
 喧嘩がヒートアップする。


 朝の忙しい時に姉弟の喧嘩も
 日常茶飯事だ。


 楠家はごくごく普通の
 家族同然の関係性で
 過ごしていた。



 この普通がいつまでも
 続いてくれるといいなと母である
 美羽は願う。
 

 


 
  
 
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