振り返って、接吻



ばたん、とドアが閉まる。



ふと、まだ手に握ったままだったスマートフォンで由鶴のGPSを確認した。うん、ここに向かっているみたいだ。お利口さん。


———わたしは誰よりもツイている。



日本有数の資産家のご令嬢で、家族関係も概ね良好で、様々な分野において最優秀賞を総ナメにしてきた。友だちとも普通にうまくやってるし、勉強もスポーツも得意だから学業は楽勝ってかんじ。


何より、生まれた瞬間からすぐそばに深月由鶴がいるのだ。そんな幸運、他にあると思う?

由鶴は、この世の美の完成形ともいえるような綺麗な容姿の男の子だ。

容姿にこだわりはないものの、稀に見る完璧主義者なので美容においてもきちんと最低限の手入れを欠かさない。細身ですらりと背が高い体型の維持、隙のない制服の着こなし、彼はニキビの1つも許さないタイプの人間だ。

もちろん、顔立ちそのものがどの角度から見ても恐ろしく整っている。

さらさらとした黒い前髪からのぞく切れ長の目。長く伸びた睫毛に縁取られているそれは、見つめられると不思議な気持ちになる。吸い込まれそうな。煌めく漆黒。

すっと通った自然な鼻筋が、彼の整った顔立ちをより際立たせている。口角が上がった薄い唇は、吐き出す毒によく似合っていた。


幼い頃から天使のように美少年だったけど、中等部に入ったあたりからいっきに女の子の支持を集めるようになった。やや陰のある大人びた雰囲気は、妙に女心をくすぐってしまうらしい。

なんていうんだろう、色っぽいんだよね。ほかの高校生よりも圧倒的に。長い指とか、ほっそりした首筋とか。腕の筋肉と血管とか。

わたしは根っからの由鶴オタクだから、由鶴の髪の先から爪先まであいしてる。あの美貌も含めて大好き。


容姿に上も下もないと主張したいけど、由鶴の綺麗な顔がわたしは好きだ。一生見ていられるし、なれるなら、なりたい。

由鶴に、なりたい。誰がどう見ても、由鶴はうつくしい。それは絶対的な価値で、みんなが認めている。たくさんの憧れを当たり前みたいに受け取って、興味がないと振り払う。

わたしが喉から手が出るほど欲しているものに、彼は関心も持たずにいる。


ただ、わたしに必要とされることだけが、彼の承認欲求が満たすことができる。他人からの褒め言葉も批判も、彼にはどうでもいいことだ。“深月由鶴の唯一”は、極上の毒。


わたしは、由鶴に恋をしているのだろうか。

由鶴に恋をしている女の子は沢山いる。つまり、わたしもその中のひとりなのだろうか。



こんなに、好きなのに。

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