振り返って、接吻
わたしは試験期間は寝る間も惜しんで勉強しないといけない。なおかつ、それを隠さないといけないから面倒だ。
ほら、わたしって、みんなが思うような天才型じゃないくせに、天才ぶってるから。はいはい、わたしは見栄っ張りですよ。
「凛子ちゃ〜んきいてる〜?」
楽しく会話していた女の子たちが、ひらひらとわたしの目の前で手を振ってきて、はっと我に返った。
「ああ、ほんとごめん、考えごとしてたみたい」
わたしが苦笑して謝ると、大らかな彼女たちはにこにこ笑ってまた話し始めた。
「凛子ちゃんの幼馴染の深月くんの話してたのよ」
「ほんとに格好良すぎるんだもん、目の保養だよねえ」
「授業中うとうとしてるの可愛すぎる」
「高級な黒猫みたい」
また、由鶴か。みんながみんな「深月が、」「由鶴が、」って。
大人になったら些細なことだけど、中学生のわたしは、隣に並ぶのが嫌になるくらいに由鶴へ嫉妬していた。
わたしのほうが成績良いのに学校の先生も由鶴にメロメロだし、わたしのほうが仲良くしてるのに女の子たちは由鶴の話をするし、わたしのほうが頑張っているのにみんな由鶴に注目する。
わたしが子どもすぎたせいで、どうしても他人と比較してしまうのだ。しかも、唯一わたしが負けてしまう相手。