振り返って、接吻
中学生特有の繊細な乙女心は、複雑に絡み合って、わたしを苦しめる。
ああ、わたしもいちばん綺麗になりたい。
「深月くんみたいに綺麗すぎると苦労も多そうだよね」
わたしの思考が読まれたかのようなタイミングで、ツインテールの子が悩ましげに言った。
「だって、目を合わせたひとほとんどがトリコになっちゃうんだよ」
「男のひとからも告白されそうだしね」
「それじゃあ、あんな人嫌いになるのも当然だね」
たしかに由鶴は、会う人全員に「綺麗な子だね」と声をかけられる。彼の評価されるべき点はもっともっと沢山あるのに、みんなが彼の美貌に魅了されて、他が霞んでしまう。
わたしは、誰よりも由鶴のことを知ってる。由鶴が優しくて良い子なところも知ってる。謙虚で驕らず、容姿だけでなく心まできれいな子だ。
でも、それがわたしを緩やかに苦しめていることを、彼は知らない。由鶴は、何も知らない。
由鶴のことはもちろん好きだ。わたしに懐いてくれるのはかわいいし、境遇もよく似ているせいか考え方も近いものがある。
好きだけど、好きだからこそ、たまに、嫌になる。
大切にしてあげたいけど、わたしの手で壊したい。
広い世界を見せたいけど、わたしだけのものにしたい。
幸せになってほしいけど、わたしよりも少しだけ不幸であってほしいのだ。
そんな歪んだ感情を隠して、よくできた幼馴染を演じるわたしの限界はすぐそこまで来ていた。
するといきなり。
「だーれだ」
視界を冷たい手で遮り、抑揚の無い甘い男声が耳元にとろりと垂らしこまれた。至近距離のせいで、すっきりとした香りがふわっと香る。