振り返って、接吻
沢山の注目を集めるなか、宇田凛子は愛嬌のある笑みを浮かべながら話を進める。
「学生時代のわたしは、好きな男の子の隣に並ぶのが苦痛でした。
彼は何でもできる天才型で、家柄が良くて、謙虚で真っ直ぐで、何も言わなくてもみんなから好かれていて、誰よりも美しくて、みんなが魅了されていて。
わたしが欲しくて、努力して手に入れたものをすべて持っていたし、努力しても手に入らないものを生まれながらにして持っていました」
彼女の話を聞いて、記者だけでなく、会場の客全員が、脳内には学生時代の深月由鶴を思い浮かべた。
「勝手に比較しては落ち込んで、もしかしたらみんなも比較してるのかもと思ったらとても怖くて、隣にいるのが嫌になりそうでした」
他人から見たら、完璧すぎるふたり。容姿も家柄も学歴も申し分なく、〝天は二物を与えず〟なんて彼女たちの辞書には存在しない言葉だ。
だけど確かに、深月由鶴と仲良くするのは、プライドを捨てないと困難であるだろう。彼はあまりにも完璧すぎる。無口で無表情なところさえ、強い魅力にしてしまうような男だ。
「もういっそ嫌いになりたいと思っていました。彼と一緒にいなければ、こんなに自分を見失って苦しむこともないですからね。
だけど嫌いになれなくて、けっきょくずっと隣にいて、ふとしたタイミングで気付いたんです」
そうして彼女は、ひとつ呼吸をおいて口を開いた。
「ああ、わたし、由鶴のことが好きなのかもしれないって」
まず、彼女が探せばいるような美女だなんて言ったことを撤回しなければならない。宇田凛子がどこか他にいるなんてあり得ない。
そう思わせるような、洗練された極上な笑みを見せた宇田グループの令嬢に、会場の客全員が息を飲んだ。
「きっと、ずっと昔から好きでした。ていうか、そうじゃないと説明ができないくらいに、わたしは彼に執着していました。
でも、自分よりも美しい彼に好きだなんて、思春期のわたしには言えなかったんです」