振り返って、接吻
それから、自分よりずっと年上の金持ちや年下のモデルと挨拶を交わしながら、欠伸を我慢していた。俺なんかに媚びてくる人間は多いけれど、媚びているのを隠している大人は特に気味が悪くて嫌だ。
「新作のグロス、すごく良くてヘビロテしそう」
「とてもお似合いです、肌が白いのでブルーのお色味が映えますね」
綺麗な容姿の女性というのは、この世界において大量生産されているようだ。新商品を試した招待客を丁寧に褒めながら思う。
とはいえ、俺だって無個性な人間のひとりだ。個性といって思いつくのはやや身長が高いことと実家が金持ちなこと、でもそれはどちらも両親のおかげに違いない。
「深月さんって本当にお美しいですよねえ、欠点とか無いんですか?」
「どうでしょうね」
質問にはなるべく短く答える。長所も短所もないようなところが欠点な俺は、それを上手に答える話術を持たないことが最大の欠点だ。
ゆるく微笑んで、その場を立ち去る。宇田と茅根を撒くときに使う技だから、忙しいふりをするのは得意だ。
でも、二歩も進めばまた声をかけられる。また同じような容姿の美女、美女、美女。
美女との会話は、決して対等にはならない。
「深月さん、もっとコスメのお話したいので、お食事でもどうですか?」
「宇田も誘って、是非」
向こうが俺に媚びているようで、けっきょく俺が折れるしか会話は成立しない。美女はたいてい気が強いしプライドが高いし、扱いにくい。
宇田だから許しているというだけで、俺はそういう女がすこぶる苦手だ。宇田って、まさにそういう女だけど。
接待という仕事はあんまり好きではないが、これも好きな仕事をするためには必要な仕事なのだから複雑だ。
社交性ってどこで得られるスキルなわけ?生まれつきかな。だって、育ってきた環境は宇田と変わらないはずだもん。