振り返って、接吻




俺と宇田はずっと、同じ目標に向かい、お互いを信じてやってきた。同級生や幼馴染だなんて、甘やかな関係じゃない。自他共に認める運命共同体だ。



ところで。

ふたりの関係を結び続ける秘訣のひとつは、お互いあまり干渉しすぎないことではないだろうか。これから先ずっと共に永遠に歩み続ける運命ならば、どこかで余白を作るのは必要なことだ。


早い段階でこれから永遠を誓うだろうと悟っていた俺らは、物心ついたときから無意識のうちに、お互いに余白を残していた。


それが、恋愛だ。

俺らは何でも理解しあっているが、情報を何でも共有しあっているわけではない。俺から宇田に恋愛相談を持ち掛けるなら死んだほうがましだし、宇田から好きな男の話など持ち掛けられたら俺はその場で死ぬと思う。


元来俺は恋愛に熱をあげる類の人間ではないし、自分の話をべらべらとスピーカーのように話すわけでもない。恋人の存在に浮かれることも無ければ、失恋に泣くことも無かったのである。

そして、それは宇田も同じだった。なんなら、彼氏の雰囲気すら匂わせたことがない。おそらく男に言い寄られることもないのだろう。小柄な体躯でか弱いと判断して近づいてみようものなら、大火傷は必須の女だ。


いや、違う、いまはそんなことを思い出したいわけじゃない。

腕を回した細い腰を抱き寄せながら、考える。


宇田って、俺のことどう思っているのだろう。そして、その本音を彼女の言葉で綴られる日は来るのだろうか。


これから彼女は、必要とあらば俺への愛を語るだろう。その言葉たちはきっと、まわりの人間がうっとりするほど綺麗な彼女の真実の愛が込められているように聞こえるに違いない。

でも、宇田が多くの人が集まる場において、本音を話すことなんて、まず、あり得ない。俺だって、そこらの女優を圧倒的に超えている宇田の演技に騙されていればいいものを、それをするには過ごした時間が長すぎる。

だけど、踏み込むにはまだ短いのだ。また、宇田の本音に傷つけられない自信もない。


「俺って、宇田に気を遣いすぎかな」

「毎日わたしに暴言吐いてるの忘れた?」



思わずひとりごとを言っていたらしい。しかも小さい声量のおかげで周りは気付いていないが、すぐ隣で歩く宇田には聞こえてしまったらしい。よかった、本人の耳に直接届いたから、陰口にならずに済む。


ばっちり視線が絡んでしまい、俺はいたずらを誤魔化す子どものように瞬きをして見せた。

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