不遇な令嬢は次期組長の秘めたる溺愛に絡め取られる。
和仁さんの問いに少し悩んでから、こう答えた。
「愛ならいただいてますよ」
「は?」
運転しながらだから一瞬だけど、和仁さんはこちらを見た。
「愛の形は恋愛だけではないと思います。舎弟の皆さんが和仁さんを慕うのも、愛でしょう?
私に良くしてくださるのも、我儘を聞いてくださるのも、少なくとも親愛の念があると受け取っています」
本当にどうでもいいと思っているなら、きっとここまではしないはず。
私の身の上に同情してここまでしてくださっているとは思えない。和仁さんはそんな人じゃない。
「夫婦としての愛じゃなくてもいいんです」
そもそも和仁さんは本来私には勿体なさすぎる旦那様だ。私が百円アイスなら、和仁さんは一流パティシエが作った高級ジェラートくらいの差がある。
「私は十分幸せですよ」
「君は……本当に変わっているな」
「そうですか?」
「……誰も愛したくないと思っていたのに」
信号が赤になった直後、和仁さんは私の方を見つめた。和仁さんに見つめられるのは慣れなくて、すごくドキドキする。
「ずっと思っていたが、君の瞳は綺麗だな」
「えっ……」
一気に体中の熱が上昇していくのを感じる。
どうしよう、心臓がドキドキして止まらない。おかしくなりそう――。
信号が青に変わり、車が発進した。
私はしばらくドキドキして何も言えなかった。
恋愛感情、夫婦としての愛はいらないと思っていたのに。あんな風に言われたら、ダメよ。
ほんの少し、スプーン一杯くらいでも期待してしまうわ――。