不遇な令嬢は次期組長の秘めたる溺愛に絡め取られる。

惹かれる気持ち side.和仁



 結婚をする気はなかった。
 だが跡取りが欲しい父の命令で仕方なく結婚した。

 父が見繕ってきた相手は、恩を売られて娘を差し出すしかなかったようだ。
 カタギといっても結局やり方は極道そのものだな、と呆れるしかない。

 書類上の妻になったジェシカは、はっきり言ってかなり変わっていた。
 政略結婚の上に極道に身売りされたようなものなのに、少しも臆する様子がなかった。

 夫となる男に「愛せない」と言われても笑顔で了承するので、彼女の思惑は何だろうと思い身の上を探らせた。


「葉桜ジェシカ、24歳。職業は英会話教室の講師。あの容姿に少し天然な言動、また授業は真面目で特に男子生徒の人気はかなり高い。結婚を機に退職。
アメリカ人とのハーフ。父親は前妻の子としていたが、実際は不倫相手の子だ。彼女が14歳の時に母親が亡くなっており、父親に引き取られた。
父は本妻との間に娘がいて、本妻とその娘からはかなり嫌な扱いを受けていたらしい。父は不倫相手の子を引き取ることになった負い目から強く言えなかったみたいだな」


 詳しく調べてくれたのは、古くから俺の右腕である(みね)だった。


「彼女が冷遇されていたことは近所の間でも噂になっていたようだ。まあ一人だけ明らかに容姿が違うし、目立つんだろうな。
実家を早く出たいと思っていたのなら、政略結婚でもいいと思ったのかもしれない」


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