不遇な令嬢は次期組長の秘めたる溺愛に絡め取られる。


 それにしても極道の妻でもいいのか?とも思ったが、人それぞれ価値観は異なる。
 何を利点とするのかは個人の自由だろう。

 それにジェシカは案外馴染んでいた。
 親に見捨てられた形でこの家に嫁がされ、哀れなのは確かなので極力彼女に窮屈な思いはさせないようにと思った。

 舎弟たちにもよく言って聞かせた。
 そうしたらいつの間にか打ち解け、庭いじりまで始めていた。
 俺の部屋には毎日違う花が一輪飾られるようになった。


「姐さんが来てから桜花組が明るくなった気がしやす!」
「ああ、俺たちにも優しく気配りのできる方だ。兄貴、いい嫁さんをもらいましたね!」


 舎弟たちは口々にそう言った。みんなジェシカを慕うようになっていた。

 確かにジェシカが来てから空気が明るく、穏やかになったような気がする。
 自然と笑い声が聞こえてくるようになった。何よりジェシカはいつも楽しそうだった。

 庭を綺麗にするだけでは飽き足らず、蘭さんの実家で華道も習い始めた。そこから満咲にバレたのは誤算だが、それでも楽しくやっていた。

 彼女の希望で食事を共にし、少しでもコミュニケーションを取るようになってわかったことがある。

 ジェシカはいつも前向きだ。
 決して他人のせいにはせず、現状を受け入れてどう楽しむかをいつも考えている。

 書類上だけの妻だと思っていたのに、段々と彼女に興味を持ち始めていた。


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