社内恋愛を始めたところ、腹黒上司が激甘彼氏になりまして
「……手元に携帯がありません。個人の携帯を持ち歩いていないので」

 とは嘘でポケットに入っている。

「そう? じゃあ、これに書いておくね」

 部長は嘘を見破りもせずメモ用紙へ記入しかけ、はたと仕草を止めた。

「どうかしましたか?」

「君もこういうキャラクターものを使うんだ?」

 コンコンと人差し指で用紙をつつく。まるで私がファンシー用品を使用するのが意外と言いたげに。

 部長を含めた皆に自分がどう認識されているか承知している。私が家でぬいぐるみに囲まれていると知れば、さぞ驚くだろう。

「部長は『ねぇかわ』をご存知ですか?」

「名前は聞いたことがあるが内容までは。教えてくれない?」

「ーーえ、知りたいんですか?」

「あぁ、君が興味を持つものなら知っておきたいな」

 仕事に関係ない事を部長へ説明するのは新鮮、それに少し嬉しい。

「『ねぇかわ』はSNSでも人気なんですけど、可愛いだけじゃなくシュールで、ブラックジョークも折り混ざっていて最近ハマっているんです」

「ふーん、そうなの」

 まじまじ『ねぇかわ』を眺める姿が面白い。私は側に寄り、一番お気に入りのキャラクターの紹介もしてみた。

「私はこの『山猫』というキャラクターが好きなんですよ。山猫は頭が良くて何でもそつなくこなす割、肝心な場面で素直になれない性格でして」
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