社内恋愛を始めたところ、腹黒上司が激甘彼氏になりまして
「企んでますよね?」

 眼差しに力を込め、問う。

 キラキラ輝く部長は遠い存在で、同じ部屋に居ても生きている世界が違う気がした。結局どれほど憧れようと肩を並べて仕事をするのは叶わないのか。

 部長は肩を竦め、かぶりを振る。

「言った通り、社内恋愛が及ぼす影響を身を持って味わいたい。それと君が僕以外の社員と付き合うのが不快に感じたんだ、本当だよ?
町田の時もそうだったけれど、手塩にかけた部下を取られるのは嫌みたい。誰かに取られるくらいなら、いっそ自分のものにしたいなぁ」

 目をすーと細めると、やや間をあけて。

「ーーよし、大分片付いたし、今日のところは連絡先を交換して解散しようか」

 上着から携帯電話を取り出す。

「あの、番号は知ってますけど?」

「それは会社の電話。これは個人用」

 当たり前だが部長にだってプライベートはある。が、これまでを振り返ってみても部長が個人的な部分を覗かせる機会は少なかった。
 携帯番号を始め、住んでいる所や家族構成など私が伝えていても、彼からは教えられていないのに気付く。
 そう、何も知らないくせ私の頭はこんなにも部長で占領されている。
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