社内恋愛を始めたところ、腹黒上司が激甘彼氏になりまして
「いいから、もう出ていって下さい!」

「うーん、あの資料は次回のコンペか?」

「そうですけど、それが何か?」

 部長に対し、失礼な真似をしている自覚はある。けれどこの心理状態で部長と話なんて無理。巧みな話術に乗せられ、心のうちを暴かれてしまう。

 全身を使って彼をぐいぐい出口へ押し出す。

「待て待て、乱暴に押すんじゃない。あんな粗末な企画を出すから朝霧に先を越されるんじゃないか。僕で良ければアドバイスをーー」

「放っといて下さい!」

 作りかけとはいえ、構想の段階でばっさり見限られてしまうと留めていた感情が溢れる。

「部長のアドバイスなんて要りません!」

 怒りに任せ、ファイルを思い切り床へ叩き付けていた。

「第一、私に営業なんて向いてないんですよ! 部長が私を営業部へ行かせて、私はあなたの下で働きたいって言ったのに! それを今更なんだって言うんですか?」

 華の営業部へ転属は一般的に高待遇だ。部長は表向では私を認め、手元から巣立たせた風に見える。しかしながら実際の所、私が煩わしかったのだと思う。

 私が部長へ抱く憧れが恋心にならないか疑い、社内恋愛は作業効率を下げると語り、牽制していたんだ。
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