神殺しのクロノスタシスⅤ〜後編〜
…とりあえず、言いたいことは。

「出ていくつもりだって…ちゃんと俺達に話してくれたのは、感謝する」

これが令月やすぐり…あと、ナジュだったとしたら。

絶対何も言わず、勝手に行方を晦ましていたことだろう。
 
探さないでください、とばかりにな。

アホ吐かせ。探すわ。

その点、事前に「出ていく」と教えてくれたマシュリは、奴らよりは賢い。

「…なんか羽久さん、最近僕にも当たりが強くないですか…?」

ナジュがポツリと呟いていたが、それはどうでも良い。

「でも、何でいきなり…出ていくなんて…」

「そう、そうだよマシュリ君!」

落っことしたキャラメルチョコマフィンを拾って、シルナはマシュリに迫った。

既にシルナは半泣きであった。

「どうして?何が駄目?何か気に入らなかった?」

「…いや…そういうことじゃ…」

「マフィン食べて、ほら。とりあえず甘いものを食べて落ち着こうよ!ね?マフィンあげるから!」

半泣きでマフィンを押し付けようとするな。

「何なら、おやつに食べるつもりのチョコアイスケーキ、ホールごとあげるから!好きなだけチョコ食べて良いから…出ていくなんて悲しいこと言わないで!」

…あのな、シルナ。

気持ちは分かるし、かなりの大盤振る舞いしてるところ悪いけど。

マシュリはお前と違って、チョコには釣られんだろ。

猫だぞ、こいつ。 

案の定、マシュリは。

「…チョコは要らないよ。別に」

ボソッ、とそう言った。

だよな。俺もそう思う。

「どうして…?何か足りないものがあるの?その…不満に思うこととか…?」

天音がおずおずと、言葉を選びながらマシュリに尋ねた。

よくぞ聞いてくれた。

「これだけ歓迎してやっているというのに、出ていきたいとは…。贅沢な野良猫ですね」

イレースは、相変わらず容赦がなかった。

やめろって。そりゃ確かに俺も…ちょっとそう思ってるけど。

本人を前にして言うことじゃねーから。

あと、マシュリは飼い猫だろ。

「…良くしてもらってるのは分かってるよ」

マシュリは俺達から視線を逸らし、床を見つめながら答えた。

「別に不満がある訳じゃない…。ここはとても…居心地の良い場所だ」
 
…そう、か。

そう思ってもらえて光栄だ。

でも、だからこそ分からない。

本当にそう思うのなら、何故マシュリは…出ていくなんて言い出したんだ?

「だけど、それだけに…僕がここにいたら…」

「…怖いの?マシュリ君」

ふざけるのをやめたらしいシルナが、マシュリにそう言った。
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