神殺しのクロノスタシスⅤ〜後編〜
「そう言われたら、身も蓋もないけど…」

「でも、そういうことでしょ?」

「本人は絶対認めないと思うよ」

認めようと認めまいと、王者としての器が小さいことに変わりはない。 

ルーデュニア聖王国の女王とは大違い。

情けないね。

器が小さいっていうのは、上に立つ者として一番情けないと思うよ。

『アメノミコト』を見ているから、余計そう思う。

「好きが嫌いはさておき、魔導師が自分にとって便利な駒であることは事実だから…」

「それはそれ、これはこれなんだろーね。俺はこんな王様に仕えるなんて御免だけど」

僕も嫌だよ。

もう、誰かに使われる駒になるのはまっぴらだ。

「…そろそろ着くよ」

そのようだね。

いろり形態のマシュリの案内で、皇宮の地下に到着。

暗がりの先に、堅そうな南京錠がかけられた鉄格子の扉があった。

「『八千歳』、頼める?」

「はいはい。いーよ」

『八千歳』は片手から、しゅるりと糸を伸ばし。

南京錠の鍵穴に糸を突っ込んで、あっという間に解錠。

僕も、針金やヘアピンを使って鍵開けするのは得意なんだけど。

こればかりは、『八千歳』には敵わないよ。

「はい。じゃ入ろっかー」

「…君達にかかったら、鍵なんて関係ないね」

マシュリが、ポツリと呟いていた。

この程度は序の口だよ。『終日組』の暗殺者なら余計にね。

「それで、皇王様の居場所は?」

夜だから、私室にいるのかな?

もう寝てたりして?

「どうだろう…。寝室か…そうでなければ、王の間にいると思うけど」

王の間だって。

随分仰々しい場所にいるんだね。王様って。

むしろ、王様だからこそ?

「ここから近いのはどっち?」

「寝室かな」

「じゃ、そっちから行こう」

勿論、姿を隠しながらね。

これは僕達の専売特許だ。

ましてや、マシュリという道案内がいるならなおさら。

偉い人の屋敷というのは、ならず者の侵入を防ぐ為に、廊下や階段がかなり入り組んだ構造になっていることが多い。

見張りの兵士の姿も、ちらほら見受けられる。

「皇宮の見張りに見つかったら、問答無用で撃たれるから注意して」

だって。

「誰に物言ってるのさ。よゆーだよ、このくらい」

「…そのようだね。見つからないよう気をつけて」

当然。

この程度で、僕達の足を止められると思ったら大間違いだよ。

じゃあ、遠慮なく進ませてもらおうか。
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