神殺しのクロノスタシスⅤ〜後編〜
ナツキ様の豹変に、シルナも一瞬言葉を失った。

「それは…その…」

「…もう良い。己の役目を果たせない人間に、生きる価値はない」

ナツキ様は、シルナに聞こえるか聞こえないかという小さな声で、そう呟いた。

「失望したよ、シルナ・エインリー学院長。あんたはもっと、話の分かる人物だと思っていたんだが」

それは買い被りだな。

シルナは話分からんぞ。結構自分本位だしな。

「…羽久、今私に失礼なこと…」

「良いから」

「…そうだね。有り難い申し出なんだろうけど、私には応えられない」

交渉決裂、だな。

それは良いとして、心配なのは。

ナツキ様の誘いを断った俺達が、 果たして、無事にこの場を切り抜けられるのかどうか、だ。

申し出を受け入れられないなら、この場で死ね、と言わんばかりに。

今にでも、ナンセイ国軍に取り囲まれそうで心配。

あるいは、帰りの船を大海原で沈められたり。

「…心配しなくても、帰りの道中くらいは保証してやるさ」

ナツキ様は、俺の考えが分かったようにそう言った。

鼻で笑うような、せせら笑うような口調だった。

余程機嫌が悪いと見える。

「だが、次に会ったときは…命の保証は出来ない」

「…だろうね」

この時点で既に、帰り道を保証してやるって言われても、全然信用出来ないもんな。

次に会ったとき、どうなるか…なんて、考えたくもない。

「いずれ、この日のことを後悔するだろう」

その自信は何処から?

「それはこっちの台詞だ…。土下座してでも俺達を味方にしておかなかったことを、いずれあんたが後悔する日が来るだろうよ」

ここまで拗れた以上、最早おべっかは必要ない。

そっちが脅しを掛けてくるなら、こっちも受けて立つよ。

しかし、俺程度の脅しでは、ナツキ様は少しも怯まなかった。

最後に一度、軽蔑の眼差しで俺達を見つめ。

そのまま、挨拶もなしに退室してしまった。

…。

…嵐が過ぎ去ったかのようだ。
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