神殺しのクロノスタシスⅤ〜後編〜
…あれこれと、こうしたらどうかああしたらどうかと、作戦を考えてみたものの。

「…結局、どの作戦が有効なのか分からないな」

どれも考えようによっては有効だし、考えようによっては無効なのだ。

ジュリスの言う通り、適材適所、ケースバイケースってことだな。

「それぞれの得意不得意ってものがあるからね。少しでも自分にとって有利な戦況に持っていくしかないね…」

と、シルナがまとめた。

「…そういうことだな」

やれやれ。これじゃあ何の為のミーティングなのやら。

「とにかく、苦手な戦いだけは避けよう。不利な状況は変わらないんだから、せめて少しでも得意な戦いに持ち込もう」

「…それを許してくれる相手だと良いがな」

対戦相手のことなんて何も分からない俺達に対して、アーリヤット皇国側は俺達の得意不得意をある程度把握している。

当然、俺達にとって苦手な戦いに持ち込むよう、対戦相手を選んでくるはずだ。

そんなただでさえ不利な状況の中で、俺達に出来ることと言ったら…。

…せめて、少しでも自分の弱みに付け込まれるのではなく、強みを活かせる戦局に持っていくことだな。

それが出来たら良いのだが…。

…いや、出来るかどうかじゃなくて、やるのだ。

やらなきゃ負ける。

「誰が決闘に選ばれるか、誰が対戦相手になるかは分からない。でも皆、どんな戦況になっても、くれぐれも焦らないで。逃げ回っても防戦一方でも構わない。最後に勝てば良いんだから」

シルナは十人の代表達に向かって、そうアドバイスした。

格好良く勝つ必要はない。

どんなに惨めな勝利だろうが、卑怯な…勝利は、国の代表としてあまり好ましくないかもしれないが…。

どんな勝ちでも、勝ちは勝ち。最終的に勝てばそれで良いのだ。

負けるよりマシ。

「それから、もう一つ…一番大切なことを伝えておくね」

…一番大切なこと?

「…って、何だよ?」

「命を大事に。皆、何があっても死なないで。負けるのは一向に構わないけど、命を落とすのだけはやめて」

シルナは真剣な顔で、皆に向かってそう言った。

…成程。

確かに、それは一番大切なことだな。

国の危機を救うのは大切だが、仲間の命を守るのはもっと大切だ。
 
一人の仲間を守れない奴に、国を守れるはずがない。

「負けそうになったら投降しても良いんだよ。どんな形であれ戦闘不能になれば、それで勝敗は決まるんだから。命をかける必要はない。負けて帰っても良いから、生きて帰ろう。これは約束だよ」

シルナにしては珍しく、有無を言わせない口調であった。

…こう言われちゃ、約束、破る訳にはいかないな。

「…うんざりするほど甘い人だな」

ルディシアの一言である。

そう思うだろ?

普段から甘いものばっか食べてるからな。

「でも、それがシルナなんだよ」

甘さを捨てられないが故に、シルナは強いんだと思う。

状況は不利だが、この仲間達の顔を見ていると、俄然何とかなりそうな気がしてくるから不思議だな。
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