神殺しのクロノスタシスⅤ〜後編〜
そうか。そうなるよな。

マシュリは神竜の血を引いているが、同時にケルベロスと人間のキメラでもある訳で…。 

一人で人間、ケルベロス、神竜の豪華三種盛りの血が流れている。

凄いお得感があるが、今回の場合は全然お得でも何でもない。

マシュリは今、「神竜族として」、「神竜に」裁かれようとしている。

だがリリスは、「ケルベロスとして」のマシュリを引き合いに出すことで、マシュリを守ろうとしていた。
 
「我が臣下を、勝手に裁くことは許さない。この者の処罰について、今一度再考を…」

「…下らぬ」

しかし、神竜族の長は耳を貸さない。

「穢らわしい獣の女王が。貴様に口を出す資格はない」

「…」

ナジュが聞いてたら、大激怒だろうな。

自称「高貴なる」一族である神竜にとっては、他種族は全部穢らわしいんだろう。

シルナには悪いが、本当に昔のイーニシュフェルトの里みたいな考えだな。

「これは契りだ。契りを違えた者に裁きを下すのは当然のこと…」

契り…約束ね。

おおかた、マシュリがバハムートに『変化』することを許さない…みたいな約束をしていたんだろう。

だがマシュリは、今回の決闘で、その姿を晒してしまった。
 
それで約束を破ったからと、裁きが下されようとしていたんだろうが…。

…やらせない。そんなことは絶対に。

「今ならば見逃してやる。罪人マシュリ・カティア一人を始末するだけにしてやる」

神竜の長は偉そうに、上から目線でそう言った。

「だが、これ以上我の邪魔をするならば…貴様らも同罪とみなし、我ら神竜族の敵として…」

「やれよ」

ぐだぐだと能書き垂れてんじゃねぇ。

脅すくらいなら、ひと思いにやれよ。

「は、羽久…」

俺があんまり、きっぱり敵対宣言をするものだから。

マシュリは目を白黒させて、本当に良いのかと表情で問いかけてきた。

あぁ、良い。

良いに決まってるだろ。

それで仲間を守れるなら。

幻の世界にいれば、お前はきっとこんな理由で罪の責任を背負わされることはなかった。

それなのに、俺が帰ってきてしまったせいで、マシュリは神竜族と敵対することになってしまった。

だから、その分の責任は…俺が背負うよ。

更に、俺だけではない。
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