神殺しのクロノスタシスⅤ〜後編〜
えーと…何て説明してやるべきかな。

「鬼退治はするけど、やり方が間違ってる」

「えっ?」

「恵方巻きを無理矢理食わせるんじゃなくて、イワシと豆を使うんだよ」

豆とイワシは、何も恵方巻きの材料に使う訳じゃない。

あれは人間が食べるものだよ。

「何で豆なの?」

「昔の人は語呂合わせが好きでな、『魔を滅する』と書いて魔滅(まめ)と読ませて…」

「イワシは何で?」

「鬼が嫌がる匂いなんだってよ」

「ふーん…?じゃあ、やっぱりイワシを食べさせた方が撃退出来るんじゃない?だって嫌いな匂いなんでしょ?」

それはまぁ…そうなんだけど。

昔からそういうことになってるんだよ。伝統なの、伝統。

現代人の俺達には、それこそベリクリーデのように「何で?」と思うことはいっぱいあるけど。

昔の人はそうだったんだから、その伝統を大事にしてあげようぜ。

「それで、どうやって豆で鬼退治するの?」

「え?それは…投げるんだよ。豆撒き。鬼は外福は内、って叫びながら鬼に向かって豆を投げるんだ」

「どうしてそんなことするの?食べ物を投げたりしたら駄目なんだよ?」

「…」

ベリクリーデにしては非常に真っ当なことを言うもんだから、一瞬何も言い返せなくなった。

ベリクリーデの言うことの方が正しいなんて。

「イワシは?イワシも投げるの?」

「…イワシは投げないよ。吊るしておくんだよ、家の軒先とかに…」

「食べ物で遊んじゃいけないんだよ?」

「…うん…」

そうだな。お前が正しいな。

別に遊んでる訳じゃなくて、あれもそれなりの意味があってやってるんだけど…。

…食べ物を、食べる以外の用途で使うのは…確かに、罰当たりと言われても文句言えないかも。

それは昔の人に言ってやってくれ。

そう考えると、ベリクリーデが主張する「鬼退治」は、少なくとも食べ物を無駄にはしてないよな。

「そんな方法で鬼を退治するのか…。嫌だな」

嫌って言っても、それが伝統な訳だから…。

しかし、ベリクリーデは伝統なんてまるで無視をして、こう言った。

「それならもういっそ、鬼も一緒にいて良いから、一緒に恵方巻き食べようよ」

「…優しい世界だな…」

現代的で良いんじゃないの?

明日の節分で追い出された鬼がいたら、ベリクリーデのところに来いよ。

一緒に恵方巻き食べて、仲良く出来るかもしれないぞ。
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