神殺しのクロノスタシスⅤ〜後編〜
…で。

「…ツキナ。この猫どーするの?」

「…うーん…」

怪我は治した。身体も温めた。餌も食べさせた。

しかし、根本的な問題は何も解決していない。

この猫、これからどーするの?

「そもそもこいつ、野良猫?飼い猫?」

「分かんない…。首輪はつけてないから、野良猫だと思ってるんだけど…」

まぁ、飼い猫の全てが首輪をつけてる訳じゃないし?

もしかしたら、人間の主人に嫌気が差した飼い猫が、家から逃げてきたのかも。

それは分かんないよねー。

「いずれにしても、学院で面倒見てあげたいんだよ。…すぐり君、どうしよう?」

「うん?」

「どうにかして、先生達に内緒でこの子、飼えないかな…?」

…ふむ。

先生達に内緒で…か。

それは無理なんじゃないかなー。ナジュせんせーがいるから。

読心魔法を使われたら、いくら黙っててもバレるし。

でも…ツキナがここまで俺を頼ってくれているのだ。

応えるのが男ってもんだろう?

ナジュせんせーだって分かってくれるよ。

好きな女の子の前では、例え虚勢でも強がってみせる。

それが男ってものだからねー。

「よし、分かった。じゃー…あの場所を使おうか」

「あの場所?」

まず一番に必要なのは、猫の隠し場所だよね。

それなら、思い当たる場所がある。

「園芸部の倉庫だよ。そこに隠しておこう」

「成程。あそこなら広さもあるし、園芸部以外の人間が開けることもないし、良いかもね」

『八千代』も同意。

でしょ?

「昼間の間は、倉庫に隠しておけば安心だよ」

「閉じ込めるの可哀想な気もするけど…」

「だって、まさか学生寮の部屋に置いておく訳にはいかないでしょ?」

「うーん…そうだよね」

猫は気まぐれだって言うしね。

助けられた恩も忘れて、部屋を荒らして行方を晦ますかもしれない。

それに学生寮に置いておいては、鳴き声で他の生徒にバレるかもしれないし。

その点園芸部の倉庫なら、部員以外が近寄ることはない。

いくら猫が中で鳴いても、誰かに聞かれてしまう危険はないだろう。

「分かったよ。猫ちゃん、閉じ込めちゃうけどごめんね」

よしよし、と猫の頭を撫でるツキナ。 

ちょっと。そこ場所替わって。

閉じ込めるって言っても、倉庫の中は結構広いし、今の季節なら暑さ寒さに悩まされることもないし。

結構快適なんじゃない?

水と餌を入れたお皿を、一緒に倉庫の中に入れといてさぁ。

当面の間は、それで大丈夫だと思う。

…当面の間は、だけど。




…こうして。

ツキナ達女子生徒に保護された猫は、園芸部の倉庫の中に隠されることになった。







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