神殺しのクロノスタシスⅤ〜後編〜
そんな、まさか…。

「シュニィを殺して…国内の治安を大きく乱すのが目的だって言うのか?」

「有り得なくはないでしょ」

「…」

そんなはずはない、と言えないのが辛いところ。

その通りだ。

シュニィに…万が一のことがあったら、アトラスだってただじゃ済まない。

聖魔騎士団は、かつてないほどの混乱に襲われるはずだ。

そして、国内の治安を守っている聖魔騎士団が揺れれば、国民達の生活も脅かされる。

それに、今の俺達には…一つ、思い当たる節がある。

「…シルナ、もしかして…『HOME』の奴らが…」

「…可能性はあるね」

シルナも、俺と同じ結論に辿り着いたらしい。

さすがに青ざめている。

…アーリヤット皇国の皇王直属軍が、ルーデュニア聖王国聖魔騎士団の副団長を手に掛ける。

そのまま戦争が始まっても、全くおかしくない。

「…『HOME』?って何?」

キュレムは首を傾げたが、今はまだ…ナツキ様とフユリ様の因縁については、話さない方が良いだろう。

考えたくない最悪の事態を考えるより、今はその最悪の事態を避ける方法を考えよう。

「ともかく、一刻も早くシュニィを見つけないと」

「死体になってないことを祈るばかりだね」

縁起でもないことを言うなよ、令月。

「エリュティア君が探してくれてるんだよね?見つかりそう?」

「さぁ…。俺もすぐ逃げてきたからな。今頃見つけてるかもしれない」

そうであって欲しいものだ。

「ひとまず、私達も聖魔騎士団に行こう。イレースちゃん、天音君、ナジュ君も、学院をしばらく任せて良いかな?」

シルナが、イレース達にそう頼んだ。

俺が含まれてなくて良かった。

シルナが駄目だと言っても、俺はシルナについていくぞ。

俺だって、シルナと同じくらいシュニィのことを心配してるんだからな。

「分かりました」
 
「留守は任せてください」

イレースと天音は即答…だったが。

「僕は学院長達についていきますよ」

ナジュは、俺達に同行することを希望した。

「僕はシュニィさんと大して面識はありませんが…。誘拐犯の目的が分からない以上、僕の読心魔法が有効なのでは?」

…言われてみれば、そうかもしれない。

もし誘拐犯と接触することが出来たら、ナジュがその場に居合わせるだけで、少なくとも誘拐の目的は分かる。

誘拐犯と接触出来たら、の話だけど…。

「…今は、悩んでる時間が惜しいだろ」

「…そうだね。ナジュ君、それじゃあ君もついてきてもらえるかな」

「そう来なくては」

そして。

シルナは、二人の元暗殺者の方を向いた。

「令月君、すぐり君。君達にも頼んで良いかな?」

…言うと思ったよ。

本来なら、生徒である令月とすぐりを巻き込みたくはない。

しかし、今は聖魔騎士団存亡の危機と言って良いほどの非常時だ。

申し訳ないが、この二人の力を借りたかった。

「頼まなくても、ついていくつもりだったけどね」

そうかよ。

「二人も、シュニィちゃんを探してもらえないかな」

幸い、既に外は日が暮れている。

すなわち、この二人の時間だ。

「仕方ないなー。行こっか、『八千代』」

「うん。行こう『八千歳』」

令月とすぐりの実力なら、例え誘拐犯と接触しても、上手く切り抜けられるはずだ。

むしろ、誘拐犯の命の方が心配になるくらい。

不甲斐ない大人で申し訳ないが、打てる手は全て打っておきたかった。
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