私の「運命の人」
乃愛は秀一に抱き付く。秀一は驚いたように息を呑んだものの、すぐに「中野さん、離れなさい」とどこか冷たく聞こえる声で言う。しかし、乃愛は離れることはなかった。さらに力を込めてしがみつく。

「先生……どうして……どうして……婚約者を決められなくちゃいけないんでしょうか?好きな人がいても、「好き」と言えない。女は子どもを産んで家事をする道具ですか?夢を追いかけちゃいけないの?……私、あの人と結婚なんてしたくない!」

「……そんなことを言ってはいけませんよ。子どもを産める体なのは幸せなことなのですから」

秀一は優しくそう言うものの、乃愛は泣きながら首を横に振る。子どもを産むことができても、好きだと思える相手と出なければ意味がないのだ。

「甘粕先生、好きです。私にとって運命の人は、生まれて初めて好きになれたのは、あなたです。政治家の人が決めた婚約者なんて知らない。私が恋しているのはあなたです!」

秀一に抱き付きながら乃愛は想いを伝えていた。この光景を誰かに見られてしまったのなら、秀一は解雇どころの問題ではないだろう。だが、この気持ちだけは止めることができなかった。

「中野さん、その気持ちは恋じゃありません。きっと憧れを恋と勘違いしているんですよ。婚約者があなたにはいるんです。そんなことを言うのはいけないことですよ」
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