私の「運命の人」
(先生は素敵な人なのに)

三年生になると副教科は選択科目となる。音楽を選んだのは乃愛だけで、友達からはかなり心配された。

『中野乃愛さん、よろしくお願いします。私の授業を選んでくれて、ありがとうございます』

初めての授業の日、秀一は優しく微笑んでいた。そして、二人きりの音楽室で乃愛は歌や楽器を教えてもらい、乃愛は時間が経つごとに秀一に興味を持っていった。

(先生は、自分の立場を全く不幸だと思っていない。堂々としていて素敵)

「興味」が「初恋」に変わるのに、時間はかからなかった。気が付けば乃愛は秀一を探している。

「先生、今日も素敵だった……!」

誰にも聞こえないよう小声で乃愛は呟く。カップケーキを「おいしい」と言ってくれた。夢を応援してくれた。嬉しさが込み上げ、それと同時に「先生の婚約者になれたら」と叶うことのない願いが生まれてしまう。

片付けを済ませて鞄を手にすると、スマホから通知音が響く。スマホを見た乃愛の顔は、一瞬にして曇っていった。

『今週の土曜日、朝の十時に迎えに行くから』
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