冷血警視正は孤独な令嬢を溺愛で娶り満たす
 横開きの扉を開け、男は蛍の背中を押した。

 寒々とした埃っぽい場所だった。建物のなかは思ったより広く、コンテナが整然と並んでいる。明かりがついているのは奥の一か所だけなのでほの暗い。おそらく周囲に見つかることを恐れてそうしているのだろう。

「逃げないようにしておけよ」

 リーダーの命令に従って、ふたりの男は蛍の手首に巻かれていた紐を鉄骨の柱にくくりつけた。冷たい床に座った状態で身動きが取れなくなる。

(……どうすればいいんだろう)

 蛍は晋也をにらむが、彼は自分のほうを見ようとはしない。

(如月さんはなんでこんな人たちに協力を?)

 野心のない穏やかな男だと思っていた。こういう世界と関わり合いになるような人物だなんて……こうして目の前にしても信じがたい。

「あ、あの私はもう」

 晋也は帰りたいと彼らに目で訴えた。だが、リーダー格の男は無情にも首を横に振った。

「ダメだ。海堂治郎と連絡がつくまで、という契約だ」

 逆らう度胸はないのだろう、晋也は肩を落とし黙った。

「会長は?」
「もうすぐ到着されます」
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