スカウトしたはずのイケメン御曹司からプロポーズされました
   *

 スポットライトに照らされて、私はじっと虚空を見つめた。
 この公演『結末が決められない』は、舞台中央に立ち尽くすユメと、彼女を背後から抱きしめるヒロの構図から始まる。当初は背中合わせに立っているだけの予定だったが、貴博さんが演技に乗り気になってくれたため、よりインパクトのある画を求めていったらこうなった。
 まずは夢すら追いかけられていない、ユメの現状を描きたい。
 書きたいことはたくさんあるのに原稿は全く進まない。真面目に働いているわけでもないのに仕事で忙しいと言い訳して、いっそ仕事なんか辞めてしまおうかと考える。イマジナリーフレンドの都合のいい男が全て受け止めてくれるのをいいことに、ひたすら自分の話を垂れ流していく。
 自分のことでいっぱいいっぱいのユメはヒロと視線を合わせない。けれども彼は彼女を優しく抱きしめ、大丈夫だとささやき続ける。二人の会話は今一つ嚙み合わないが、それでも互いに依存していることがよく分かる冒頭だと、作者としては自負している。
 夢と現実、すなわち創作と仕事という二項対立を主題に据えた際、本当は一度ヒロインを無職にしてみたかった。
 しかし、堂々と小説家志望をうそぶくユメでさえ、現実はそう簡単に捨てられないらしい。申し訳程度にのらくら働く彼女の頭の片隅では「いい加減自立した大人にならなければ」という思いが密かに渦を巻いている。
< 48 / 204 >

この作品をシェア

pagetop