異国の地で出会った財閥御曹司は再会後に溺愛で包囲する
***

 レストランでの食事を終えた私たちは、空港のタクシー乗り場へと移動した。
 ひとりで帰れると伝えたけれど、琉輝さんはマンションまで私を送っていくと言って聞かなかった。

「あ、今日は空気が澄んでるから星が綺麗ですよ?」

 足を止めて私が夜空を見上げると、琉輝さんもその整った顔をゆっくりと上に向けた。

「満天に輝く星をアメリカで一緒に見ましたよね」

「日本でも見ようって約束したよな。いい場所を探しとくよ」

 二年半前に交わした小さな約束だったのに、彼が覚えていてくれたことがうれしくて思わず顔が綻んだ。

「ボストンに行って本当によかったです。琉輝さんと出会えたから」

「俺にとってもかけがえのない出会いだった」

 長い腕が伸びてきて、あっという間に彼の胸に抱き寄せられる。
 目の前に逞しい胸板が広がっていると意識すると、急激に顔に熱が集まってきた。

「物理的な距離なんて関係なく、俺の心にはずっと翠々がいた」

 思いの丈をやっと口にできたとばかりに、琉輝さんがふんだんに色気を含んだ瞳で私を捕らえる。

「そばにいられないのが悔しくて今まで伝えられなかったけど、俺は翠々が好きだ。……翠々はどう?」

「私は、その……琉輝さんは鳴宮財閥の御曹司で雲の上の人だから、私なんか釣り合わないです」

「それは俺の聞きたい答えじゃないな」

 残念そうに眉を下げて苦笑いをする琉輝さんを目にすると、切ない気持ちでいっぱいになった。
 だけどどう考えても名家の財閥御曹司と私では家柄が天と地ほど違う。それは変えられない事実だ。

「正直な気持ちを聞かせてほしい。俺は雲の上にはいないよ。目の前にいるだろ?」

「でも……」

「虫唾が走るくらい俺のことが嫌いだ、っていう理由以外は受けつけない」

 余裕たっぷりにおどける琉輝さんを見て、どうしたらいいのかとまごついている自分がバカみたいに思えた。
 小心者で迷ってばかりの私を、彼はいつでも大きな器で受け止めてくれる。こんな男性はほかにはいない。

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