完全包囲 御曹司の秘めた恋心

お見合い

羽田ロンドン往復のフライトを終えた私は、自宅マンションの掃除に勤しんでいた。
スマホが着信を知らせる。母からだ。

「もしもし」

「環奈、来週の水曜日なんだけど、誕生日だから仕事はお休みよね?」

「うん」

そうなのだ。私の働く職場は、誕生日休暇というものがあり、来週27歳を迎えるその日も、強制的に休みが組み込まれている。

「お母さん、こっちに来てお祝いしてくれるの?」

「無理」

「即答」

「ねぇ環奈」

「何?」

「お見合いしてきてちょうだい」

一瞬思考が停止する。

「今、お見合いって言った?」

「言ったわよ」

「そんな、買い物でも行ってきて、みたいなノリで言われても」

「拒否権はないわよ 」

「ちょ、ちょっと待ってよ! その日は美紗都と約束があるの。大事な約束」

その日は、美紗都から大切な人を紹介してもらう日でもあるのだ。

「その後でいいから」

「後って言われても……」

「まさか、他に予定入ってるの? 美紗都さんとは何時にどこで会うの? どこかに行くの? 遅くなるの? 」

「お母さん、そんな矢継ぎ早に……」

「いけないいけない、じょゆっ」

「ん?何?じょゆ?」

「な、何でもないわ。ところで、何だったかしら?」

「何だったかしらって、美紗都との待ち合わせのことを訊きたかったんでしょ?」

「そうよ、そうだったわ」

「場所は、都内のカーディナルプレイスホテル。カフェラウンジで15時に待ち合わせしてる。会うのは1時間くらいじゃないかな?その後美紗都も用事があるみたいだし。私は帰って陸上世界大会のテレビ中継を見るつもり」

「そしたら環奈、あなたはそのままラウンジに残りなさい。お相手の方がそこに行くから」

「え⁉︎ お母さんが勝手に決めていいの?」

「いいの」

「決定権凄すぎる」

「わかった。じゃあ、そのままラウンジにいればいいのね?」

「ええ」

「名前は? 相手の名前」

「ゲイル・ベアーさん」

「はい? 異国の人?」

「まぁ、あなたはオシャレでもして待ってなさい。じゃあ、よろしくね」

「え、あ、お母さん!」

既に通話は切れていた。

お見合い? 私が? しかも異国の人?
話が唐突すぎて追いついていけない。
きっと断っても一蹴されるだけだ。ここは素直に会ってみることにしよう。


そして、私は誕生日を迎えた。
< 14 / 53 >

この作品をシェア

pagetop