完全包囲 御曹司の秘めた恋心
「本当に、あの颯介君?」

「そうだよ」

「どうして名前を偽ったの?」

「偽りでもないかな」

「どういうこと?」

私は頭の中にゲイル・ベアーという文字を浮かべた。確かに、ベアーは《Bear》で熊。
ならばゲイルは? 《Gale》? でもそれだと疾風。

「………そうか!」

「ねっ、偽りでもないだろ?」

「Gale は疾風(はやて)。イコール(はやて)ってこと?」

「大正解」

彼が屈託のない笑みを向ける。

「でも、どうして?」

「君の記憶の中の俺の印象は?」

「それは……」

思わず俯いてしまう。

「やっぱりそうだよな……俺はね、起死回生の時を虎視眈々と狙っていたんだ」

彼は、まるで物語を紡いでいくかのように語り始めた。
< 26 / 53 >

この作品をシェア

pagetop