最後の花火
「夏帆(かほ)、お疲れ〜!」

明るい声と共に、壊れてしまうのではと思うほど大きな音を立てて美術室のドアが開く。ムワリと男子特有の臭いが部屋中に漂うも、私は気にせず振り返る。もう何年も嗅いだことのある臭いだ。この鼻はすっかり慣れてしまっている。

「夏希(なつき)、お疲れ。バスケ部練習終わったんだ」

「まあ、練習って言っても後半は俺のお別れ会だったけどな。お別れ会とかすんなって前々から言ってあったのに」

日焼けした肌の上を滴る汗を乱暴に拭い、夏希は近くにあった椅子に腰掛ける。学校指定のジャージを「あち〜!」と言いながら捲り、パタパタと動かす。美術部に来るたび、夏希はこうして暑いのを誤魔化そうとする。

「それ、涼しくなるの?意味なくない?」

「ちょっとは変わるかもだろ。ったく、ここもクーラーついたらいいのにな」

このやり取りをするのも恒例になっていた。でも、このやり取りが当たり前にできるのは、あと数回もきっとない。

私と夏希は幼なじみという関係だ。家が近所で、保育園から高校までずっと一緒。クラスは離れてしまうことがあったけど、歳を重ねるごとに関わることがなくなることもなかった。そして、私は、夏希のことがーーー好きだ。
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