孤独な悪役魔王の花嫁に立候補します〜魔の森で二人と一匹が幸せを掴み取るまで〜
「アイノ、一つ約束をしてほしいことがあるの。暗黒期は決して三区から出ないと約束して。国も警戒しないといけないし、暗黒期は魔物の気も立っているから。どうしても何か用事があるのなら。二階の方から街に出ることはできるし私も買い出しにはいけるから。とにかく森には入らないで」

「約束するわ」

「ありがとう。アルトのことは貴女を信じてるからあまり気にしてないわ。二人だけの新婚生活をごゆっくり」

「し、新婚生活!」

 私がどぎまぎしているうちに、ショコラは微笑みを残してダイニングから颯爽と出て行った。残されたのはどこかきまずい私とアルト様だ。

「……暗黒期の始まりってなんだか静かですね」

 天気の話をするみたいに、それくらいしか話題は思いつかなかった。外が暗いだけで何か変わるわけでもない、でも何かいつもと違う。

「俺もそう思った」
「夜に変化が起きると言っても想像がつきません」
「俺も今回初めて暗黒期の過ごし方を知る」
「魔人の年齢の経過がよくわからないんですが、二十年前はまだアルト様は赤ちゃんだったんですか?」

 アルト様の実年齢がわからないけれど、二十年前の暗黒期は経験しているとばかり思っていた。

「前回は人間に換算すると十歳だった。だけど、花嫁が来た暗黒期は知らない。前回、花嫁は来なかったからだ」
「花嫁が来なかった……?」

 アルト様は何か迷うようにフォークとナイフの手も止めた。少しだけ考えて話し始める。
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