孤独な悪役魔王の花嫁に立候補します〜魔の森で二人と一匹が幸せを掴み取るまで〜
 金色の瞳は、獣のように獰猛なのに。不安そうに濡れている。
 私がアルト様のそばを離れるわけないのに。どうしていつも迷子のような表情をするんだろう。

 そっとアルト様の右頬に触れてみると、びくりと身体が震える。急いた手が私の手首を掴み、手のひらが更に強く押し付けられると少しだけ表情が和らぐ。

 もしかして手のひらから魔力が流れるのかしら。

 私は左手も頬に当てると、アルト様はその手も掴んでから、目を瞑り気持ちよさそうに小さく頬ずりをする。……可愛い。

「アイノ」

 ようやく手首は開放されて、かわりに強く抱きしめられる。あまりにも強く抱きしめられるから頬から手が離れてしまう。でもアルト様はそんなことはおかまいなしで、身体と身体はぴったりくっついているのに、それでは足りないとばかりに私の髪の毛を掬ってキスを落としていく……!

 ちょ、ちょっと……待って!!
 これ、誰!? これが暗黒期の溺愛モードなんですか!?

「アイノ」

 甘い声が何度も降ってきて、鼓動を直に聞いて、体温に強く包まれて、もうちょっと、限界かもしれません……!

「ア、アルト様……!」

 身をよじって少し身体を離すと、私の髪の毛を一房掬って口づけているアルト様と目があった。……ねえ、どうしようもなく絵になっていて、破壊力が大変なことになっているんですが、どうしたらいいんですか?

「俺から離れるな」

 そうしてまた私は引き寄せられて、見上げると優しく微笑みかけられる。こんな笑顔、初めて見た。

 本当に誰ですか?

「アイノ、愛している」

 通常時のアルト様が絶対に言わないセリフ第一位を囁いたところで、私の記憶は途切れた。
< 122 / 231 >

この作品をシェア

pagetop