孤独な悪役魔王の花嫁に立候補します〜魔の森で二人と一匹が幸せを掴み取るまで〜
 それは喜ばしいことなんだけど、三十分も抱きしめて愛を囁き続けられているから、頭も身体も容量オーバーでパンクしそう……!

「私もアルト様が大すきです」

 声に出さないと、気持ちが破裂しそうで吐き出してみた。素直に言えるのは、翌日には残らない気がしたから。
『夜』の間なら、素直に気持ちを吐いてしまっても大丈夫な気がした。

 だけど、

「え……?」

 さっきまでとろけるように熱かった瞳が、穏やかに揺蕩う青に戻っていて。私の肩を触れると、そっと身体を押し離した。

「アルト様?」
「す、すまない……」

 未だに角や羽は残ったままだけど、気まずそうにさっと目線をそらすのはどう見ても『いつもの』アルト様だ。

 すまない……、というのは何に対して?

 そう聞きたいのに、その言葉は喉に張り付いたまま出てこなくて。

「意識が戻っているんですか?」
「ああ。身体は朝にならないと戻らないが、魔力が渡されて落ち着くと戻るらしい。昨日もそうだった」
「昨日も……」

 それで朝が来る前に部屋まで運ぶことができたのか。
 胸がちくんと痛む。『夜』のアルト様は離れるな、と言うけれど、いつものアルト様は私を部屋に送っていくんだ。

 アルト様はなんと言っていいかわからないようで押し黙っている。
 ――先程までの恋人の時間を覚えているのか、聞くのが怖い。無意識なのか、何かに支配されてしまっているのか。何がどうなってるのか、それを聞いてしまったら傷つく気がした。

「えっと、落ち着いたなら良かったです。私、部屋に帰りますね」
「あ、ああ。助かった。……身体は大丈夫なのか?」
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