孤独な悪役魔王の花嫁に立候補します〜魔の森で二人と一匹が幸せを掴み取るまで〜
 アルト様は心配そうに尋ねてくれるから、笑顔を作って返事の代わりに立ち上がって見せる。……うん。部屋まで歩くことはできそうだ。
 そう思って一歩踏み出すけれど、少しよろけてしまう。

「おい、大丈夫か。送っていく」

「だ、大丈夫です!!」

 自分でもこんなに大きな声を出すつもりはなかった。しまったと思って振り向くけど、アルト様の目は見開かれて、すぐに目をそらした。

「ご、ごめんなさい。ちょっと疲れてるのでもう寝ますね」

 私は早口でそう言うと、すぐに部屋の扉を出た。足がもつれるけれど、どうせ私の部屋には十秒もあれば到達する。
 なんとか自分の部屋までたどり着いて扉を閉めるとその場にしゃがみこんだ。魔力の受け渡しは気づかないうちに体力を消耗するみたいだ。

 ……私らしくない。何やってんだか。アルト様はなんにも悪くないのに大声であんな風に。あれでは拒絶だ、態度が悪すぎた、ひどかった。

 感情が忙しすぎる。
 初めての恋を自覚したばかりで、甘やかされて愛されて、その後に目をそらされると……どうしていいかわからない。

 もう今日は寝よう。うん。また明日考えよう! 明日は自然に過ごさないと。いつも通りのポジティブで明るいアイノに戻る。

 のろのろとベッドに潜り込んだ私はそのまま意識を手放した。
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