孤独な悪役魔王の花嫁に立候補します〜魔の森で二人と一匹が幸せを掴み取るまで〜
 完全に冷えた頭で彼女を見ると、アイノは下手くそな笑顔を作った。――こんな顔、初めて見る。

「怖かっただろう、すまない」
「い、いえ。もう大丈夫なんですよ。魔力の受け渡し本当に慣れたみたいですね!? キスでも倒れたりしないんですよ! 全然平気です!」

 アイノは首を振ると、上擦った声でそう言った。

「えっと、もう普段のアルト様に戻ってますよね?」
「あ、ああ」
「今夜の魔力の受け渡しは成功ですね! ――では私部屋に戻ります!」
「……アイノ」
「すみません。やっぱり少しは疲れちゃうみたいで、今日はもう休ませてもらいますね! お、おやすみなさい!」

 アイノは早口で一気に言い終えると、すぐに立ち上がり部屋から出ていった。

「帰ってしまったか」

 アイノがいなくなったベッドでは眠れる気もしないからロッキングチェアに移動する。

 ……キスをしてしまった。
 キスをしても大丈夫だと先日言ってくれた。でも今日の表情を見るととても大丈夫そうに見えない。

 ――やはり、キスはされたくないのだろう。
 花嫁になる、と来てくれたが、俺への気持ちはきっと「憧れ」だったり父や兄への「家族愛」だ。

 共に過ごして、魔力を分けてくれる。
 それ以上なにを求めているのだ。アイノが欲しいものはきっと「家族」と「居場所」なのだから。

「気をつけなくては……」

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