孤独な悪役魔王の花嫁に立候補します〜魔の森で二人と一匹が幸せを掴み取るまで〜
 認めないようにしていたけれど『白の花嫁』になりたくないんじゃない、アルト様の恋人になりたいだけなのだ。

「でもそれは……」
「欲しいものは欲しいって言っていいのよ」

 ショコラは肉球をぽすんと私の頬に当てた。

「アルトは不器用の塊だけど、本当はアイノもそうだったのね。あなたはずっと明るくて自由に見えて、本当に欲しいものは言わない」
「私が本当に欲しいもの」

 ――それはアルト様の心だ。うわべで愛されても虚しいだけだ。形だけの花嫁なんていらない。

「あの子はアイノがいないとダメダメだから。きっとあなたの気持ちなんて何一つ気づかずに、斜め上の想像をしているわよ」
「ふふ、ちょっと想像つく。私アルト様のこと見えなくなってた」
「混乱するのも無理もないわ。でも『夜』の姿じゃなくて、昼や今まで過ごした時間を信じて」

 そうだ。アルト様は朝が来れば今までと変わらなかった。激情はひそめても穏やかな優しさは変わっていない。

「ありがとう。私らしくなかったわ」
「うん。でも、いつでも明るくいる必要なんてないから」

 ショコラの柔らかい前足が私の手と重ねられる。

「だけどね。不安な時こそ会話をすることは忘れないで。わかり合うことはあなたの心を守ることにもなるの」
「知るのは怖いわ」
「知らないほうがもっと怖い」
「……本当にそうね」
「それはアルトも同じ。アイノの欲しいものを言ってみて。不器用なりに応えようとは努力するはずだから」

 最初は何も怖くなかった。失うものがないから花嫁になりたいと平気で言えた。
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