孤独な悪役魔王の花嫁に立候補します〜魔の森で二人と一匹が幸せを掴み取るまで〜
「うなされてました。置いていかないでって」
「いつも同じ夢を見る。一人だけ取り残される夢だ。――でも、今日はアイノがいた」

 アルト様は縋るように私を抱きしめ返した。夢から醒めたばかりのアルト様はどこか素直だ。

「一人だけ取り残されたのは、前回の暗黒期ですか?」
「そうだ。俺は一人留守番をしていた」
「花嫁行列の時に?」
「ああ。本来なら花嫁行列は一族皆立ち会うものだが、熱が出てしまったんだ。子供ならば一人欠けるくらい許されるだろうと留守番をしていたんだ」
「そうだったんですか」
「眠りから覚めた俺は一人、城で皆の帰りを待っていた。花嫁にプレゼントしようと花束まで作って、バカだった」

 その時アルト様は人間に換算すると十歳だと言っていた。十歳は一人でお留守番くらいならできるかもしれないけれど、一人で生きていくことは難しい。

「数日経っても誰も帰ってこない。暗黒期の従兄は殺されたがしばらく闇は続いていて暗いままだった」

 ぽつりぽつりと語るアルト様になんと声を掛けたらいいかわからないから、私は抱き合ったまま手も握ってみる。
 十歳のアルト様もこうして抱きしめてあげたかった。

「しばらくたってショコラが現れたんだ」
「ショコラが? それまで一緒に住んでいたわけじゃなかったんですか?」
「そうだ。そしてショコラから一族皆滅ぼされたと聞いた。亡骸は国に回収された」
「そんな……」
「ショコラに言われるがまま隠れて暮らして今に至る。あの時熱を出さなければ、と何度思ったことか。俺も家族と一緒に死にたかった」
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