孤独な悪役魔王の花嫁に立候補します〜魔の森で二人と一匹が幸せを掴み取るまで〜

28 寂しがり屋の魔王

 

 暗黒期は静かに過ぎていった。
 お日様はなく暗い空が続くけれど、私達の生活は静かに過ぎていく。
 時間をかけて美味しい物を作って、魔法を教えてもらって。雨が降り続くからなかなか庭仕事はできないけど。和やかなスローライフは続いている。
 以前と違うことは、ショコラが時々しか帰ってきてくれないことと、魔力を受け渡すことでやたら私が早寝になったこと。

 そして私とアルト様の関係だ。
『白の花嫁』としてではなく、恋人だと思ってもらえているというだけで気持ちは落ち着く。
『夜』のアルト様は刺激的でやっぱりドキドキさせられっぱなしだけど、昨夜を思い出して照れている朝のアルト様は可愛い。
 毎日一緒に眠るようになって「おはようございます」と告げた時に、恥ずかしそうに照れくさそうに返される小さな「おはよう」が嬉しい。


「あの……アルト様もやりたいのですか?」

 雨で暇だからパンでも作ろうかと思って、私は材料をまぜているんだけど。アルト様はじっと私の手元を見ている、もう十分も。

「いや、見ているだけだ」
「面白いですか?」
「ああ」

 本当だろうか。昼食を終えてキッチンに移動した私の後にアルト様はついてきて何をするでもなくただ見ている。片付けの洗い物から、パンの材料を量るところまで何ひとつ面白いポイントはなかったと思うのだけど。

「アルト様もやってみますか?」
「いや、いい」
「ここから力仕事なので手伝ってもらえるとありがたいんですけど」
「わかった」

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