孤独な悪役魔王の花嫁に立候補します〜魔の森で二人と一匹が幸せを掴み取るまで〜
「僕は、魔人を滅ぼすことや一部の貴族のためだけの国は正しいことと思えません」
「マティアス、何を焦っている? お前は次期国王だ。今真っ向から対立せずとも、お前の代になってからゆるやかに改革していくこともできる」

 僕は隣で黙って話を聞いているリイラの手を握った。

「国は魔人を滅ぼそうとしています。今回の暗黒期を最後の好機だと捉えて。その計画の手段として、ここにいるリイラとリイラの友人は処刑されます。対魔人のために平民を魔法士に育て戦わせ、彼らはその後は危険因子として処分されます。他にも対魔人のために平民を道具のように使っているのです、幼子すら」

「国のために小さな犠牲はついてまわる。お前が真っ向から対立するならば、それだって多少の死者は出る」
「はい。しかし僕は今の国を正しいとは思いません。僕も今は国を変える好機と捉えています」
「……魔人を迫害し、平民に力を与えないということは、国として制御がしやすく民も安定するともいえるぞ」

 叔父はもう一度確かめた。僕は仲間と顔を見合わせて頷きあった。

「それでも、です。一部の貴族のためにあるこの国は、民の負担も税収も多く国への不満は高まっています。平民のなかでも魔力があることに気づいている人もいるようで、いつかこの不満が爆発した時に国は混乱するでしょう」
「そうだな。平民の魔法を禁じたのはまだ百年前だ。魔力があることを隠し知っている民もいるだろう」
「叔父上、力を貸していただけませんか。僕たちはまだ未熟でできることは少ないのです」

 僕が頭を下げると皆も続いた。お願いします、と声を上げる。
 しばらく黙って考えこんでいた叔父は「顔をあげて」と言った。

「私にもそのような情熱があった時がある。このまま地方で隠居生活もいいと思っていたが……出来る限りのことをしよう。君たちに賛同してくれる人たちも知っている」

 叔父はおだやかな眼差しを僕たちに向けた。
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