孤独な悪役魔王の花嫁に立候補します〜魔の森で二人と一匹が幸せを掴み取るまで〜
 叔父上がどのような職についていたかは細かいことは知らなかった。

「魔物が比較的穏やかなのは事実だ。馬や犬、猫とそう変わらない。彼らだって牙があったり、人間より力が強かったりする。魔物もそうだ。力はあるから下手に触れれば怪我にも繋がる」
「ではそこまで危険ではないのですか?」
「何をもって危険と判断するか、だな。小型の魔物もいるし、全てを恐れる必要はないが、強大な魔力を持つものもいる。だが基本的には人間を襲ったりはしない。住処をわけているなら大きな問題はない。
 ただ動物には気性が粗くなる時期がある。普通の動物よりも魔物はその衝動が大きいというわけだ」

 叔父は応接間にあった本棚から分厚いファイルを取り出して、僕らに見せてくれる。「わあかわいい」と声を漏らしたのはリイラ。大型犬にしかみえないこの動物も魔物らしい。

「気性が粗くなった魔物を見たことがある。何度か襲われかけたが、そのたびに彼らは何か魔法をかけられたかのようにピタと動きが止まった。私はそれを見て魔人が制御しているという話は事実だと考えた」
「では、魔人は滅ぼすべきものではないのですか?」
「それについて正解はない」

 叔父は椅子に座り直すとしっかり僕に向き合った。

「魔物を本当に国が制御しきれるのであれば、国民の不安感情を抑えるために魔人を滅ぼすことは国として間違いではないんだ。平民に魔力を与えないことだって、それも決して間違いではない。それでこの国が平和で民が暮らしやすいのであれば」
「しかし叔父上はそれを正しいと思わなかったから、今ここにいるのではないですか?」
「ははは、そうだな」
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