孤独な悪役魔王の花嫁に立候補します〜魔の森で二人と一匹が幸せを掴み取るまで〜
「魔人による被害は深刻で、ついにイルマル王国は魔人と全面戦争を行い、何十年もかけた争いは人間側が辛勝した。しかし全ての魔物と魔人を滅ぼすことはできず、魔の森に逃げ込まれた。そこで国は魔人交渉を行い平和条約を結んだ。魔の森から出てこないこと、暗黒期が来るたびに一人嫁がせること。戦う力も人口も激減した魔人は受け入れざるを得なかった」

「では二十年前に約束を違えた国は最悪だってわけですね」

「条約も友好的に結ばれたものではない、人間側が魔人を憎むのも仕方ない」

「数百年、魔人は人間側を侵さずここでじっと耐えていたというのに。ひどいですよ!」

「それはアイノが魔人寄りの考えになっているからだ。人間側が魔人を恐れるのはわかる」

「でも国がしたことは酷いですよ!」
「俺も二十年前のことは許せない、しかし向こうの考えもわからないわけではない」
「でも……!」
「全部抜けたぞ」

 話を真剣に聞いていた私は完全に手を止めてしまっていたが、アルト様の前にはこんもりと雑草の山が出来ている。いつの間にこんなに抜いていたのだろう。

「俺は人間にわかってほしいわけではない」
「私はわかってほしいですよ。何百年も前の魔人は確かに酷いことをしたかもしれませんけど、アルト様やご家族は何もしていないのに!」
「仕方がないことだ」
「でも――」
「いいんだ」

 アルト様は立ち上がると雑草に指を向けた。雑草たちが浮かび上がったかと思うと、それに火が上がり一瞬で灰になって消えた。それを見守るアルト様の瞳は暗く、初めて会った時のような瞳をしていた。
 ――アルト様は諦めている。ずっと自分を諦めている。

 魔人の優しさに。ううん、アルト様の優しさに気づかない人間はバカ野郎だ。
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