孤独な悪役魔王の花嫁に立候補します〜魔の森で二人と一匹が幸せを掴み取るまで〜
 そのうち反応がない私に腹が立ったようで、同部屋という誰にも見られない空間を手に入れたサンドラは、眠っている私に水をぶっかけたり、手のひらをヒールで踏みつぶしたり、「私たちは部屋で食事を取るわ」と言って久々にサンドラの食べ残しを与えられる日々が戻ってきた。
 自分の食べ残しを人に食べさせたいの、ここまでくると性癖ではないだろうか。


 常にべったりとサンドラが隣に居るのでリイラとも過ごせなかった。王都を出る日にリイラに「あなたの幸せを常に祈っています、それから王子との幸せも。あなたの友より」と手紙だけ送るにとどめることにした。


 最後の夜、サンドラは久々に私の髪の毛を燃やした。
「花嫁になるアイノにとびきりのメイクよ」と言って。水魔法ですぐ消したが、長い髪の毛はチリチリになっていた。

「お姉様、ありがとう」いつも黙ってされるがままになっていた私はほほ笑んで、髪の毛をバッサリ切った。

「な、なによ」

「私が今から行く場所が魔王城だとはご存知よね」

「ええ。魔物の餌になるんでしょう? 食い散らかされて」

 サンドラはニィと笑った。人が餌になるのが嬉しいらしい。
「生贄じゃないわ、文字通り花嫁なのよ。旦那様になる魔王様に伝えておくわね、お姉様が素敵な髪型にしてくれたこと」

「えっ、花嫁に?」

 サンドラは白の花嫁のことを知らないようだ。若者にとって魔族は遠い存在だ。

「ええ、魔王様は実在するのよ」

「魔王の妻だなんて、どんな目に遭うことかしら」

「あら、知らなかった? 魔王はただの一人の花嫁を大切に愛するの」

 クスクス笑うサンドラに教えてあげると、目をぱちぱち瞬かせている、意味を考えているらしい。

「お姉様が八つ裂きにされるのを楽しみに今夜は眠りたいと思います」

 わからないようなのできちんと教えてあげることにした。

「ちょっとアイノ! そんなこと許さないわよ」

 それではおやすみなさいとベッドに入った私に、サンドラは馬乗りになって金切り声をあげた。
 魔王のことをよくしらなくても、魔物が恐ろしいものということは共通認識みたい。

「お姉様に許して貰わなくても結構ですよ。私にはもう関係ないことですので」

「本気で言っているの?」

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